朝井リョウさん「イン・ザ・メガチャーチ」どんな本? 今の時代に何を信じ、操られ、行動するのか
2025年9月刊行の『イン・ザ・メガチャーチ』で描かれるのは、ファンダム(とりわけ熱いファンの集団)経済です。レコード会社勤務の久保田、大学での居場所が見つからない久保田の娘・澄香、若手俳優のファンダムだった隅川絢子35歳。物語は3人の視点で描かれ、今の時代に人々は何を信じ、操られ、行動するのか、現代社会の深部を映し出します。
沈みゆく列島で、“界隈”は沸騰する――。
あるアイドルグループの運営に参画することになった、家族と離れて暮らす男。内向的で繊細な気質ゆえ積み重なる心労を癒やしたい大学生。仲間と楽しく舞台俳優を応援していたが、とある報道で状況が一変する女。ファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側――世代も立場も異なる3つの視点から、人の心を動かす“物語”の功罪を炙り出す。
「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」『イン・ザ・メガチャーチ』(日本経済新聞出版社)
時代の空気を、小説で「標本」にしてきた朝井さん。ファンダム経済をテーマにした経緯について、「好書好日」に転載された朝日新聞のインタビューで以下のように語っています。
近年、視聴者の投票でデビューメンバーを決めるアイドルのオーディション番組が増えた。視聴者の熱は終盤にかけて高まり、応援する「推し」をデビューさせるために投票を呼びかけるなど、すさまじい行動力を発揮する。そうした光景に朝井さんは、「供給された情報を浴びて、行動基準や考え方を変えさせられていく人たちへの興味が明確になった。絶対に勝たなければならない戦に臨む人たちの集団心理のようだと思ったんです」。
それは、世界中で起きてきた戦争に向かう人々の行動にも重なった。「『推し活』という入りやすい切り口から、思いもよらない場所まで飛んでいけるものが書けるんじゃないかと思った」朝井リョウさん「イン・ザ・メガチャーチ」 ファンダム経済に何を信じ、操られ、行動するのか
書評家の吉田伸子さんは、「好書好日」に掲載された朝日新聞書評で「ぎゅうぅぅっと濃縮された〝いま〟を、読むべし、読むべし」と評し、その魅力を以下のように読み解いています。
三人のうちの、誰に共鳴するのかは読み手によるだろう。私は久保田のパートにめっちゃ引き込まれました。「今後(自分の人生に)還(かえ)ってくるのは、これまでやってきたことよりも、これまでやってこなかったことのほうなのかもしれない」という冒頭の彼の言葉は、読後も棘(とげ)のように刺さっている。
現在進行形のファンダムである澄香と、かつてファンダムだった熱量を今は別の対象に向けている絢子は、まるで合わせ鏡のようだ。
久保田がいるチームを「信徒獲得と教義の布教のため」だとするマーケティングリーダーの国見。それって、選挙に、そして、戦争にも通じるものじゃないか?と思わず鳥肌が立つ。「イン・ザ・メガチャーチ」書評 濃密な〝いま〟を物語で体感する
朝井リョウさんは1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞、『正欲』で柴田錬三郎賞を受賞。ほかの著作に『スター』『そして誰もゆとらなくなった』『生殖記』などがあります。
『イン・ザ・メガチャーチ』は、2026年本屋大賞にノミネートされました。朝井さんは、発刊に際し「この15年間、私は“小説を描く”という境界に通い続けていたんだと思います。あなたは今どこにいますか」とメッセージを寄せています。