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「なぜグローバル正義は重要なのか」書評 穏やかな筆致で理不尽さに怒る

評者: 井手英策 / 朝⽇新聞掲載:2026年04月11日
なぜグローバル正義は重要なのか―分断された世界でともにより善い未来へ歩むために― 著者:クリス・アームストロング 出版社:晃洋書房 ジャンル:社会学

ISBN: 9784771040250
発売⽇: 2026/03/20
サイズ: 18.8×1.5cm/168p

「なぜグローバル正義は重要なのか」 [著]クリス・アームストロング

 グローバル化した経済の恩恵は誰のものか。先進国と最貧国、生まれた国で生きかたが左右されてよいのか。経済成長は国民の勤勉さと努力の賜物(たまもの)とされる。だが最貧国の多くは、植民地支配で資源を収奪された歴史を持つ。私たちは、祖先の不正義で手にした遺産を利用し、自らに有利な貿易条件を相手に強いながら、不当に利益を得ているだけではないか。
 本書が問うのは、あらゆる現象が国境を超えて連鎖する時代の「正義」のありかただ。人間は誰もが食糧、水、安全な場所を必要とし、目標の実現を願う。この当たり前の前提に立てば、自国民の幸福だけを優先する態度は理にかなわない。だが生命の維持だけでも済まない。すべての人の人生は等しく価値がある。将来の夢すら描けない子どもたちに必要なのは、救済に加えて、権利保障と人生の確かな見通しだ、著者はそう訴える。
 正義は時に押しつけがましいものだ。だが、著者は想定される反論を丁寧に取りあげ、読者との対話を試みる。哲学者としての領分をわきまえつつ、不平等を是正する具体案を示す。穏やかな筆致の端々からにじみ出る理不尽への怒り。変革への情熱。常識という名の私の偏見は、心地よく溶かされていく。
 グローバル正義は遠くの物語ではない。いまの日本を見よ。競争の勝ち負けが所得や文化資本の格差をうみ、出自と親の経済力が子どもたちの将来を支配しつつあるではないか。身近な理不尽と遠くの不正義。双方への無関心は地続きだ。
 国益という言葉が政治に飛びかう。では利益とは何か。生命や経済だけが答えか。私は違うとおもう。互いの尊厳を認めあい、よりよい生の基準を考える。このたゆまぬ努力は、他国の尊敬を育み、自国への誇りの源泉となる。これを利益と呼ばない道理はない。正義とは何か。何が真の国益か。本書を手に取り、「遠くの身近」を感じてみてはどうだろう。
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Chris Armstrong 英サウサンプトン大教授、政治哲学者。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスやブリストル大に学ぶ。
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白川俊介訳