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斎藤幸平さん『人新世の「黙示録」』インタビュー 自国ファーストで「気候崩壊」世界はどうなる?

斎藤幸平さん=北原千恵美撮影

戦争の時代 自分たちの利益の確保が関心事

――『人新世の「資本論」』の出版から5年が経ちました。今回著された『人新世の「黙示録」』は、前著の正統な続編とも呼べるかと思いますが、この5年の間で、斎藤さんの地球環境や現代社会に関する思いはどのように変化しましたか。

 危機感がぐっと上がったと、まずは言えるでしょう。『人新世の「資本論」』は国内で50万部を突破しただけでなく、世界各国で翻訳され、手前味噌ながら、世論に一石を投じることができました。もちろん、危機感をもって動き出したのは私だけでなく、たくさんの読者が最初の一歩を踏み出すようになっていきました。ですので、その頃は、このまま社会全体で持続可能性を重視していけば、気候変動の悪化を止めることができるのではないか、という期待が私の心の中にもあったのです。

 ただ、結果的には、気候変動は止められなかった。2022年に始まったウクライナ戦争に続き、ガザ、イラン……。戦争や紛争が立て続けに始まり、否応なしに国際問題における関心はそちらに移っていきました。もちろん戦争という悲劇を食い止めたい、という気持ちが高まるのは悪いことではありません。しかし、ここでいう関心というのは、自分たちの利益をどう確保するかという、利害の問題です。戦争の時代において、政府レベルだけでなく、人々の自国ファーストの利己的な感情ばかりが増大していった感触がありました。

 そうした風潮は、気候変動の問題においても同様に広まっていき、自国ファーストの産業政策・エネルギー政策を各国が推し進めた結果、2024年に世界の平均気温は、産業革命前と比べて、1.5度以上、上昇してしまった。2015年に締結されたパリ協定では、気温上昇を1.5度以内に収めることは大きな目標でしたが、結局それは完全に失敗に終わった。世界が「最悪の道」に突き進んでいく現実を突き付けられたわけです。

 気候変動が進んで、欠乏が常態化し、社会が不安定になっていけば、ますます戦争も起きやすくなり、悪循環しかない状態に陥っていく。それでしばらく厭世的な気分にもなっていたのですが、ただ、思想にできることを改めて考えてみようとしたのが、この2年でした。思想家として、今からでもできることを必死になって考え、その結果が今回の『人新世の「黙示録」』として結実しました。

――本書では「気候変動」よりもさらに深刻な状況を指す意味で、「気候崩壊」という言葉が使われます。「気候変動」とはどのような違いがあるのでしょうか。

 「気候崩壊」の場合は、文明の基盤を根本から脅かすほどの変化が起きてしまいます。急に温度が上昇したり、急に雨が降らなくなったり、そうした今までの気候や天候の常識からの「外れ値」が当たり前のようになってきて、かつそれは、地球システムが崩壊していくことに直結します。

 また、後戻りがもはやできなくなったということも指摘できます。先ほど、産業革命の前から世界の平均気温が1.5度の上昇を突破したという話をしましたが、2度の上昇も確実です。さらに上昇が進んで3.0度を越える可能性は十分あっても、もはや1.5度以前の世界へと戻ることはありません。後戻りのきかなくなった時代に私たちは生きているのです。

――「気候崩壊」によって具体的に起こることとしては、どのようなことがありますか。

 日本に関していえば、まず、春や秋がなくなる、「二季化」の進行ですね。4月から10月まで夏のような気候が続くようなことが、避けられなくなるかもしれません。そうなると、コメをはじめとした農作物への打撃や、またさらに広げれば、生態系全体への深刻な影響にもつながるでしょう。

 世界的に見ると、従来の予想以上に進行していると警鐘が鳴らされているのが、気候変動のせいで起きている大西洋の海流の弱化です。この「大西洋子午面循環(AMOC)」と呼ばれる海流が止まると、アフリカは酷暑に、欧州は厳寒に苦しむことになり、食糧の供給は大ダメージを受けます。降水パターンの変化もして、アマゾンの森が枯死する。すると二酸化炭素がさらに増えて、気候崩壊がますます進んでいく。ドミノ倒しのように事態は悪化するでしょう。

 巨大台風や洪水などの災害も常態化し、食品の供給、インフラの維持、新技術の生産を成り立たせることも難しくなります。そのとき到来するのが、「恒久欠乏経済」です。必然的に政治的な不安も高まりますし、環境のリスクと政治のリスクの相乗効果で、世界はさらに暗さを増していくでしょう。いわゆる、「黙示録」的な世界が目前に迫っていると認識すべきなのです。

なぜ「気候崩壊」を食い止められなかった?

――環境問題やそれに伴う経済や社会の問題は、これまで予測ができなかったわけではありませんでした。本書では、たとえば1972年にマサチューセッツ工科大学の教授たちが執筆した報告書『成長の限界』が、そのような未来の苦境を予測した例として語られていますが、では、なぜ現在の「気候崩壊」を食い止めることはできなかったのでしょうか。

 これについての私の答えはシンプルです。世界が、資本主義のもとで動いているからです。

 おっしゃるように、気候変動の問題にしても、経済成長の限界にしても、警鐘を鳴らす学者は自然科学、社会科学問わず、以前から大勢いました。また、学術界のみならず、政治の世界でも、国際的な協議が絶えず行われてきたわけですが、ではなぜ、世界が気候危機の対策に本腰を入れて取り組めないのか。それは、権力を握っている人たちが、自分たちの利益の拡大しか頭にないからです。

 権力者たち――これには政治家のみではなく大企業の経営陣も含まれますが――、彼らは基本的には、世界が何を必要としているかではなく、何が儲かるかしか考えません。たとえば、いくら脱炭素化のために必要だと分かっていても、利潤を多く獲得できる見込みがなければ、再生可能エネルギーには投資もしない。むしろ公共サービスまで民営化させて、利潤を絞り通ろうとする。

 彼らの利己的な行動のツケは、貧しい人たちや未来の世代、また人間以外の動物や植物へと回ってくることになります。そして、地球がどれだけダメージを受けても、資本主義のもとで権力を握っている人たちは、自分たちの利権や資産をいかに守るかしか考えようとしない。当然、世界は泥沼から抜け出せない。

人々の不安をうまく利用する選民ファシズム

――世界では少なくない権力者たちが「自分ファースト」の姿勢を表明しているように思います。また彼らは、環境問題にも理解が薄いように感じます。たとえばアメリカのトランプ大統領は地球温暖化対策を「史上最大の詐欺」と呼び、パリ協定から離脱、ドイツでは環境保護に反対する極右政党が急速に支持を広げました。そうした動きを見ての感触はいかがでしょうか。

 トランプ大統領に代表されるポピュリストの政治家たちは、大衆が抱く不安を自党の支持につなげて利用する政治戦略に長けていますよね。「外国人労働者が悪い」「グローバリストが悪い」など、“敵”を明確に規定し、“敵”を排除する。選ばれる側と排除される側の対立構造をあおれば、選ばれる側になりたいと思う人たちから支持を得られるという算段です。

 最近のトランプ大統領は、「カリフォルニアは地獄に落ちた」などと言って、自身に反発するカリフォルニア州のニューサム知事や民主党を攻撃する姿勢が目立ちますが、こうした構図は、世界のあちこちに見られます。

 ただ、これでは選民的なファシズムが台頭するだけですし、同時に、根本的な問題の解決にもなりません。世界にさまざまな不安があることを認識している点では、トランプ大統領も私も同じだと思いますが、そうした不安を利用するのではなく、その根本的な原因に真摯に向き合わなくてはならないんです。そのために、限られた地球の資源を本当に必要なものにしっかりと割り当てる必要がありますし、それができるのは資本主義ではなく、社会主義なのです。

後編に続く

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