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古代中国の宗教の意義を問う『「王」の誕生』 辻浩和の新書速報!

  1. 『「王」の誕生 古代中国文明の戦争・祭祀(さいし)・階層』 落合淳思(あつし)著 角川新書 1100円
  2. 『宗教のアメリカ』 藤本龍児著 岩波新書 1276円

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 1990年前後まで宗教やオカルト、スピリチュアリティーはテレビの人気テーマだった。90年代後半から宗教は一転してタブー視されるが、逆に人文社会学では非科学的・非合理的なものの果たす役割を再評価しようとしてきた。

 中国古代史家による(1)は、新石器時代から戦国時代の中国を舞台に、王権や身分、宗教や儀礼の誕生とその意義を問う。これらは非科学的ではあるが社会の維持に不可欠で、そこに「彼らなりの合理性」があったという。たとえば王は戦争に勝つために、宗教は氏族を超えて都市国家をまとめるために必要とされた。単純化した原理やモデルを示してから実際の事例を挙げる叙述はわかりやすく、他地域・他時代への連想を誘う。民主主義を信奉する現代も、古代と同じく「非科学的だが合理的」な社会であるという著者の指摘は、自らの進歩を誇り過去を侮りがちな我々への痛烈な皮肉となっている。

 社会哲学者による(2)は、「近代化すれば宗教は衰退する」という通念を覆す。福音派の動向など米国の今を追うだけでなく、それらを長期的な歴史の中で位置づける点が本書の魅力だろう。建国以来、常に宗教が異質な人々を結束させ、フロンティア精神や資本主義を支えてきた事実に触れると、「科学的な近代」という思い込みは足元から崩れていく。宗教に根差した「複数の近代」が並立するのが現在の国際情勢だという。現代人は、案外、古代人と同じ地平に立っているのかもしれない。=朝日新聞2026年5月16日掲載