杉江松恋さんが語る職業としての書評家 新刊にこだり 作品主義で解説
――英米での書評家といえば、作品の評価にも本の売れ行きにも影響を与える権威です。
日本で書評専業という方はあまりいませんでした。1980年代から地位の向上というか認知が進み、私はその後ろに乗っかっただけなので偉そうなことは言えませんが、書評家は読書文化がある限り必要なものだと思っています。
作家の丸谷才一さんは、書評の第一の条件はその本を薦め、読者が買うか買わないかを決めるためにあるとし、その上で自分の論を展開し、さらに面白ければなお良いと書いています。私もそう思っています。
――書評と文芸評論の違いかもしれませんね。杉江さんはどのようにして書評家になったのですか?
文学部のゼミの仲間が出版社に就職して、週刊誌に配属されました。自由に使っていいページがあったようで、書評を書いてみないかと声がかかりました。
――杉江さんも新入社員時代でしたから、時間の捻出が大変だったのでは?
健康上の理由でご飯は食べないって言って、昼休みの1時間は本を読んでいました。社内の付き合いは一切せず、睡眠も削って。兼業は30代前半ぐらいまでだったので、まだ無理が利きました。
――書評の原稿料はどのくらいでしたか?
安いんです。最初書いた時はびっくりして、書評家で食っていくのは無理じゃないかって思いました。
――よく会社を辞められましたね。
退職しようと思っていたころ、文芸評論家の池上冬樹さんから「映画のノベライズをやってくれる人、いないかな」と電話がありました。タイトなスケジュールでしたが、「私がやります」と即答しました。
――ベストセラーになった2003年の「バトル・ロワイアルⅡ 鎮魂歌[レクイエム]」ですね。
家族に会社を辞めることを心配されたときも、「これがあるから大丈夫」と言えたのですが、こんないい話は二度と来ないわけです(笑)。その後も年に1冊くらいノベライズの依頼がありました。これが主な収入源ですね。
――本格的にミステリー書評を始めてから31年になりました。
新刊書評にこだわるのは、作品主義で書評を書きたいからです。空っぽになるまでアウトプットをすれば、新たなものを取り込む余地が生まれますから。
最近では、ドイツ出身の翻訳家マライ・メントラインさんと一緒に芥川・直木賞の候補作を読む場も作っています。特定のジャンルや自分の得意なところだけに安住しては、縮小再生産になってしまいます。
これから書評家を目指す人たちは、志を持った上で、それをいかに続けられるかという方法を探して欲しいと思います。例えば投稿サイトnoteで書評を発表するなら、1年なら1年、2年なら2年続けてみてください。予想しない反響とか、自分の中の手応えがあると思います。
高校時代に瀬戸川猛資さんの著作から海外ミステリーの読み方を学びました。例えばクロフツの「樽」はアリバイ崩しのイメージばかりが先行するのですが、瀬戸川さんは英国小説の伝統に則って物語を再解釈し、現代読者向けの面白さを教えてくれます。
幅広い知識を持ち、構造をつかんだ上で、自由な解釈をし、わかりやすく伝える。それが今も古びない理由です。
小説とはどういうものかをストーリーや登場人物、プロットといった要素ごとにわかりやすく説明しています。有名なのは、フラット(平面的)なキャラクターと立体的なキャラクターの扱いです。書評家は文学理論とか学説にふれるようにしていた方がいいですね。表に出さずとも、小説を印象批判ではなく論じようと思ったとき、自分のバックボーンになります。
杉江松恋さんが選者を務める書評コンテストを「好書好日」で開きます。 課題図書は直木賞作家・嶋津輝さんの『カフェーの帰り道』(東京創元社)です。字数は800字(20字取り40行)以内です。杉江さんが選んだ書評は好書好日で公開し、優秀作には好書好日の特製トートバッグをプレゼントします。応募はメールで好書好日編集部(book-support@asahi.com)へ。6月20日締めきりです。
◇次回はホラー作家の背筋(せすじ)さんが登場予定です。