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「著作権全史」書評 公益促進からビジネスの保護へ

評者: 古田徹也 / 朝⽇新聞掲載:2026年08月29日
著作権全史: 古代ギリシアからAI時代まで 著者:デイヴィッド・ベロス 出版社:作品社 ジャンル:歴史・地理

ISBN: 9784867931554
発売⽇: 2026/07/03
サイズ: 13.3×19cm/328p

「著作権全史」 [著]デイヴィッド・ベロス、アレクサンドル・モンタギュー

 本書は、著作権という考え方がかたちづくられていく歴史を、ただ時系列に沿って概観するだけのものではない。著者は強い憤りを隠さずにこう指摘する。現代において著作権は世界規模のマネーマシーンと化し、大国や大企業に富を集中させて格差を広げる要因となっている。本書が長い歴史と厖大(ぼうだい)な資料を跡づけながら探究するのは、なぜこんなことになってしまったかである。
 著者によれば、著作権が実質的に誕生したのは18世紀のイギリスであり、印刷出版業者の権利を制限し、保護期限が切れた本を社会の共有財産とする判断が法廷で示されたときだという。この判断は、ビジネス上の過剰な利益追求を制限し、公衆がもっと安価に本や学ぶ機会を得られるように図るものだった。
 しかし、著作権はその後、本以外にも次々に拡大し、強化されていった。さらに、作品が企業の被雇用者によって創作された場合、著作権は企業に付与されるべきだと解釈されるようにもなった。つまり、著作権は創作者から雇用者に移され、その機能は公益の促進からビジネスの保護へと変わっていったのである。そうして、「作品」はいまや「IP(知的財産)」と呼ばれるようになり、巨大産業の「コンテンツ」と化している。
 この現状に抗して本書が強調するのは、著作権とは普遍的な自然権のたぐいではなく、欧米の社会のなかで形成と変化を重ねてきた、まさしく歴史的な産物だということである。そして、だからこそ現状も変えられるはずだと著者は考える。
 人間は古来、先人の仕事から多くを受け取り、そこから新たな作品を生み出してきた。著作権はそうした創造的活動のサイクルを阻害するのではなく、むしろ促進する装置として再生されなければならない。本書のこの訴えは、具体的な歴史記述に基づくだけに、非現実的だと簡単に切って捨てられない説得力と迫力を宿している。
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David Bellos 英国出身の学者、翻訳家、伝記作家。25年死去▽Alexandre Montagu ニューヨーク在住の実務弁護士。
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小佐田愛子訳