ISBN: 9784105058784
発売⽇: 2025/10/30
サイズ: 19.1×2cm/496p
「プレイグラウンド」 [著]リチャード・パワーズ
「プレイグラウンド」とは遊び場を意味する。AIと海という、一見無関係のフィールドは、それらを遊び場とした登場人物たちのストーリーを通じて思わぬ形でつながっていく。
物語は主に三つのプロットで構成されている。一つ目は、コンピュータを遊び場にし、巨額の富を手にした後、不治の病にかかったトッド・キーンの回想。二つ目は、フランス領ポリネシアのマカテア島が舞台だ。アメリカの企業家による海洋都市計画の提案を突然受け、島全体が揺れている。そこには、トッドが若い頃、共にゲームに没頭し、長い時間を共有した友達ラフィ・ヤングとその妻イナも暮らしている。三つ目は、海に惹(ひ)かれ、海洋生物学者となって、そこを生涯の遊び場としたイーヴリン・ボーリューの人生だ。
トッドとイーヴリンの遊びは、かれらが生き、世界を変える原動力となった。トッドの人生は、草創期から現代までのコンピュータの発展史そのものといえる。冒険心に富み、海に一途なイーヴリンの軌跡もまた、自らの興味を追求することで、様々な道を切り拓(ひら)いた二〇世紀後半の女性たちの生に重なる。だが同時に、かれらの遊びへの傾倒は、トッドにとってのラフィ、イーヴリンにとっての夫という、親密な他者の犠牲の上に成り立つものでもあった。
生成AIの登場以降、AIが私たちの生や世界をどう変えるかという問いが、より一層、切実になった。気候危機もまた、マカテア島のような太平洋の離島を危機に晒(さら)し、日本列島でも豪雨や猛暑という形で、日常と異常の境界を曖昧(あいまい)化させている。これらにたいする人びとの不安を踏まえつつも、パワーズは、テクノロジーや自然の探求の原動力となってきた人間の遊びの力に希望を見出(みいだ)しているようだ。人が何かに夢中になる情熱の力の両義性を描きつつ、そこに信をおく著者の姿勢から、人間への根源的信頼を感じた。
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Richard Powers 1957年生まれ。米国の作家。『エコー・メイカー』で全米図書賞、『オーバーストーリー』でピュリツァー賞。