よく食べるくせに、毎晩の食事を決めるのがすごく苦痛だ。お昼はコロッケかにゅうめんと割り切っているのでまったく平気だけれども、夕食はある程度手をかけられて楽しみな分、自分のわくわく感が自分で重い。夕方、散歩ついでの買い物の道中で、スーパーマーケットまでえんえんと「何が食べたい?」とぶつぶつ言っていることさえある。そのくせ、まったく何も食べたくないという日もある。それで一食抜いたら夜中に空腹でひどい目を見ることは自分でもわかっているので、無理に何かを買いに出て食べる。この、無理やり食べるものを考えなければならない状況もきつい。またコロッケかにゅうめんを食べたらいいのかもしれないけれども、「食べたくない」を引きずって食事を引き延ばした時刻(だいたい二十一時台)にはコロッケはどこも売り切れているし、にゅうめんは具をたくさん入れないと貧弱で、そしてやはりその具材の調達にだいたい事欠く。
あまりにもこの苦痛を繰り返しているので、今年から自分向けのごはんメモのようなものを作り始めた。メモを読み返すことで自分に食べたいものの訴求を行いたいのと、ときどき自分が何を作れるかを忘れてしまうからだ。さっき見返したら、めでたく三十四項目にもなっていて、なんとか食べていけるじゃないかという感じなのだが、作り方のメモ以上に「これから身体の機能が衰えるので、消費期限が切れた食べ物はもう口にしないこと(※以前はしていた)」だとか、近所のスーパーの惣菜(そうざい)が半額になる時刻だとか、べつに飲みたくなくても紅茶は常に淹(い)れてティーポットで暖を取れとか、どうもコラム的な記述が目立つ。人に見せないのをいいことに、ティーポットで暖を取れはひどいなと思うけれども、一応実践している。
自分で自分向けに書いているため、世間的にはまったく説得力のないごはんメモだが、一つだけ積極的に良い提案と言えるものがあった。「とにかくごはんを炊いてからなんでも考える」=朝日新聞2018年2月26日掲載
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