よく食べるくせに、毎晩の食事を決めるのがすごく苦痛だ。お昼はコロッケかにゅうめんと割り切っているのでまったく平気だけれども、夕食はある程度手をかけられて楽しみな分、自分のわくわく感が自分で重い。夕方、散歩ついでの買い物の道中で、スーパーマーケットまでえんえんと「何が食べたい?」とぶつぶつ言っていることさえある。そのくせ、まったく何も食べたくないという日もある。それで一食抜いたら夜中に空腹でひどい目を見ることは自分でもわかっているので、無理に何かを買いに出て食べる。この、無理やり食べるものを考えなければならない状況もきつい。またコロッケかにゅうめんを食べたらいいのかもしれないけれども、「食べたくない」を引きずって食事を引き延ばした時刻(だいたい二十一時台)にはコロッケはどこも売り切れているし、にゅうめんは具をたくさん入れないと貧弱で、そしてやはりその具材の調達にだいたい事欠く。
あまりにもこの苦痛を繰り返しているので、今年から自分向けのごはんメモのようなものを作り始めた。メモを読み返すことで自分に食べたいものの訴求を行いたいのと、ときどき自分が何を作れるかを忘れてしまうからだ。さっき見返したら、めでたく三十四項目にもなっていて、なんとか食べていけるじゃないかという感じなのだが、作り方のメモ以上に「これから身体の機能が衰えるので、消費期限が切れた食べ物はもう口にしないこと(※以前はしていた)」だとか、近所のスーパーの惣菜(そうざい)が半額になる時刻だとか、べつに飲みたくなくても紅茶は常に淹(い)れてティーポットで暖を取れとか、どうもコラム的な記述が目立つ。人に見せないのをいいことに、ティーポットで暖を取れはひどいなと思うけれども、一応実践している。
自分で自分向けに書いているため、世間的にはまったく説得力のないごはんメモだが、一つだけ積極的に良い提案と言えるものがあった。「とにかくごはんを炊いてからなんでも考える」=朝日新聞2018年2月26日掲載
編集部一押し!
-
インタビュー 荻堂顕さん「いちばんうつくしい王冠」 傷つけた側、どう罪に向き合えば 朝日新聞文化部
-
-
とりあえず、茶を。 孤独な宇宙 千早茜 千早茜
-
-
小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【連載30回記念】市川沙央さん凱旋! 芥川賞後の長すぎた2年。「自費出版するしかないと思い詰めたことも」 小説家になりたい人が、なった人に〈その後〉を聞いてみた。#30 清繭子
-
えほん新定番 内田有美さんの絵本「おせち」 アーサー・ビナードさんの英訳版も刊行 新年を寿ぐ料理に込められた祈りを感じて 澤田聡子
-
インタビュー とあるアラ子さん「ブスなんて言わないで」完結記念インタビュー ルッキズムと向き合い深まった思考 横井周子
-
一穂ミチの日々漫画 「山人が語る不思議な話 山怪朱」 (第6回) 山の怪は山の恵みと同様にバリエーション豊かだ 一穂ミチ
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂
-
イベント 戦後80年『スガモプリズン――占領下の「異空間」』 刊行記念トークイベント「誰が、どうやって、戦争の責任をとったのか?――スガモの跡地で考える」8/25開催 PR by 岩波書店
-
インタビュー 「無気力探偵」楠谷佑さん×若林踏さんミステリ小説対談 こだわりは「犯人を絞り込むロジック」 PR by マイナビ出版