『世界を変える「デザイン」の誕生』書評 IT先進地のデザインとは
評者: 佐倉統
/ 朝⽇新聞掲載:2017年04月09日
世界を変える「デザイン」の誕生 シリコンバレーと工業デザインの歴史
著者:バリー・M.カッツ
出版社:CCCメディアハウス
ジャンル:芸術・アート
ISBN: 9784484171012
発売⽇: 2017/01/27
サイズ: 21cm/353p
世界を変える「デザイン」の誕生―シリコンバレーと工業デザインの歴史 [著]バリー・M・カッツ
ぼくの妻は機械音痴だが、はじめてマッキントッシュを触ったとき、もっと早くこのパソコンを使いたかったと言った。そう、マックはユーザーに心地よさをもたらすのだ。このような製品が、どういう経緯で実現するに至ったのか。本書はシリコンバレーで起こった「デザイン革命」の過程をつぶさに再現する。
シリコンバレーといえども、1950年代にはデザイナーの地位は低く、エンジニアから蔑(さげす)まれる存在ですらあった。そこから彼らの、長く粘り強い戦いが始まる。何が必要なのかを自分で考え、新しい領域、新しい戦線、新しい方法論を切り拓(ひら)いていく。流行(はや)っているからやるのではない。
周囲のコミュニティも開放的で流動的だ。失敗や倒産といった衝撃をむしろ好機ととらえ、デザイナーたちは次の職場へと移り、新たな考えが広がっていく。
そのダイナミズムの蓄積が、マッキントッシュに結実している。シリコンバレーは一日にして成らず。