「復興百年誌―石碑が語る関東大震災」書評 神奈川県民の偉業の跡
評者: 山室恭子
/ 朝⽇新聞掲載:2017年10月22日
復興百年誌 石碑が語る関東大震災
著者:武村 雅之
出版社:鹿島出版会
ジャンル:社会・時事・政治・行政
ISBN: 9784306094482
発売⽇: 2017/09/07
サイズ: 20cm/294p
復興百年誌―石碑が語る関東大震災 [著]武村雅之
◇神奈川県民頌徳(しょうとく)碑◇
九十四年前の秋、祈りの声が地に満ちた。激震が県全域を襲い、家屋倒壊と火災と津波に幾万の人命が露と消えた。県民たちは各地に慰霊碑を建てて死者を弔った。公募にて選ばれし厚木町の碑名は「あゝ九月一日」という。
やがて復興の歩みが進んだ。県民たちは浄財を醵出(きょしゅつ)して用水を引き耕地を整理し、竣工(しゅんこう)するごとに、その地に碑を刻んだ。江の島奥津宮参道の再建鳥居の脇には、旧鳥居の残材にて作られし奉納者名碑が寄り添っている。
震災から十二年を経て、藤沢市亀井神社の復興記念碑は追憶する。「苦しき試練は人を偉大ならしめ、大災の人生に与うる教訓の深甚測り難きもの存す」と。至言なり。未曾有(みぞう)の天災と対峙(たいじ)して不断の努力を重ねた県民各位の足跡が、六百三十四件の石碑などを踏査した武村雅之氏の高著によって蘇(よみがえ)った。神奈川県民の偉業に畏敬(いけい)と感謝の念を捧げ、ここに頌徳碑を建立する。