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逝く母、残される娘、包み隠さず

ありがとうって言えたなら [作]瀧波ユカリ

 一番身近なのに時に遠ざかりたくなって、それでも居なくなるなんて考えられない存在って? 謎かけのような書き出しになってしまったが、多くの母娘はそんな関係ではないか。しかし、万物に終わりがあるように、親の終局は突然やってくる。その時、子はテストなしの本番にのぞまねばならない。
 話せばケンカばかりしていた著者が、母親の膵臓(すいぞう)にがんがあると知ったのは姉からの電話だった。そこから始まる怒濤(どとう)の日々。治療法、余命宣告を巡る葛藤があれば、実家の処分、遺影やお墓など「その後」のこともある。近親者の死はけしてキレイごとだけではない。そこで著者は疲弊していく周囲の様子を重くなり過ぎないトーンで包み隠さず描く。苦しい局面の折々で胸の内を軽くする手段についても触れられており、いずれ自分の身に同じ状況が訪れた時の処方箋(せん)がここにあるような安心感を覚えた。
 美しく厳格だった母親が些細(ささい)なことさえ出来なくなっていく——今を見つめるほど思い出との乖離(かいり)が生じ、娘のなかの母親像がゆるゆる解けていく描写が胸にせまった。残される人と逝く人、どちらにも向けられた視点はどこまでも真摯(しんし)だ。=朝日新聞2018年4月14日掲載