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渡辺ペコ「1122」 仲良しセックスレス夫婦のもつれ方

1122(1) [作]渡辺ペコ

 第1話の扉絵、だるま落としのように不安定に積み重なったウェディングケーキが象徴的だ。主人公は、11月22日(いい夫婦の日)が結婚記念日の仲良し夫婦。結婚7年目30代半ばの共働きで子供はいない。傍目(はため)にはうらやましいくらいの“いい夫婦”だが、実は二人はセックスレス。しかも、夫には妻公認の恋人がいる。相手は薄幸な人妻で、いわゆるW不倫状態だ。
 設定だけ聞くとドロドロの愛憎劇を思い浮かべるかもしれない。しかし、作中に流れる空気はむしろ透明感があり温度も低い。当意即妙の会話は笑いすら誘う(性欲についてあけすけに語る女子会シーンの破壊力たるや!)。
 その飄々(ひょうひょう)とした語り口で繰り出す愛と性、男と女に関する考察は鋭く深い。平気なはずだった夫の不倫に湧き出すもやもや、セックスレスになったきっかけについての妻と夫の認識の差など、特殊なようで普遍的な心と体のもつれが生々しく描かれる。温泉旅行で夫にセックスを拒まれた妻が〈もし男だったら〉と想像する場面には震えた。
 夫婦のみならず親子関係から社会全体まで、目配りは効いている。主人公らが抱える痛みは読者に伝染し、低温火傷(やけど)のような疼(うず)きを残す。=朝日新聞2017年6月18日掲載