プライベートバンクの嘘と真実 [著]篠田丈ほか
本書は富裕層の資産管理に携わる「プライベートバンク」、中でも本場スイスの伝統的業者について解説する。著者は現在、事業の一環として、こうした業者と共にビジネスを行っているという。
近年、「パナマ文書」など富裕層の脱税行為が世界的な非難を浴びる中、各国政府はプライベートバンクに監視の目を光らせ始めた。2018年には国際的取り決めにより、非居住者の金融口座情報は各国の税務当局間で自動交換される。
スイスもそこに含まれることから、プライベートバンクなら情報を秘密にできる、というのはもはや昔話でしかないという。また経済のグローバル化に伴い、運用担当者のささいなミスで巨額損失が発生するため、伝統的プライベートバンクの定義である「パートナーの無限責任」を維持するのが難しくなり、次々と有限責任に転換している。
従来の差別化要素が失われる中、いまだにそのメリットとして挙げられるのは、富裕層顧客との長期的な信頼関係に基づく濃密なコンサルティングという。ただ、この辺りは若干セールストーク的なので、読者は普段知らない世界を垣間見る程度の目的にとどめておいた方が無難だろう。=朝日新聞2017年7月23日掲載