もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら 青のりMAX [著]神田桂一、菊池良
昨年はフランスの文豪レーモン・クノーの『文体練習』が出版されて70周年。同じ場面を99通りの文体で書き分けた超絶技巧の名著だ。同じく昨年、そのスピリットを受け継ぐ本が出版された。「文豪」たちがカップ焼きそばの作り方を100通り書いた本。その続編が本書だ。
なぜカップ焼きそばなのか。同じインスタント食品でもカップラーメンには本物志向がある。それとは異なり、本物であることを禁じられているのがカップ焼きそば。本書で「野坂昭如」が言及しているが、そもそも「ゆでてるだけ」。つまり焼きそばのそっくりさんなのだ。
ここに登場する「文豪」も全員そっくりさんである。著者たちが誰にも遠慮することなく文体模写したものだ。2年ほど前、著者の一人が村上春樹風の文体でカップ焼きそばの作り方をツイートして人気に。その後、相棒を得て大量生産が可能になり、今に至る。手塚治虫タッチでおなじみ、田中圭一によるイラストの参加も効果的だ。
「文豪」の選定に脈絡がないのも面白い。「はじめに」と「おわりに」は、前作に引き続き「村上春樹」が担当。「ゲーテ」や「森鴎外」など教科書級の文豪も出てくるが、「西村京太郎」や「岡田利規」「ブルゾンちえみ」といった現役の人気作家、タレントが大半を占める。「バイラル・メディア」「ラーメン屋のこだわり」といった人間ですらない「文豪」も交じる。
「村上春樹」だけで一冊にする構想もあったようだ。しかし彼だけにこだわってもこれほどのヒットにはならなかっただろう。SNS時代の今、誰もが知る有名な「文豪」を探すのは難しい。すぐに消費され、忘れられてしまうからだ。実際、この本でも知らない名前と出会う。でも、その「知らない」ことを恐れる必要がない。元ネタがわからなくても検索すればすぐ出てくるし、「似てる」かどうかの評判も知ることができる。熱湯……いやネット世代に共有される「文豪」カタログといえる。
福永信(小説家)
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宝島社・1058円。第1弾の『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』が17年6月、第2弾の本書が12月に刊行。計15万部。購入者の約35%が40〜50代の女性だという。=朝日新聞2018年1月21日掲載