伊達聖伸著『ライシテから読む現代フランス』
革命の人権思想に立脚するフランスの政教分離は、国家アイデンティティーと個人、多数派と少数派など様々な位相で問題化されてきた。現在も学校など公共空間でのムスリム女性のベール着用をめぐり、フェミニズムや移民差別、植民地主義などと関わる多様な論争が続いている。宗教に限らず他者の信念や文化を尊重できるか、多文化共生をめぐる問題群を読み解く。著者は、宗教学とフランス語圏地域研究が専門の上智大准教授。(岩波新書・907円)
堀内進之介著『人工知能時代を〈善く生きる〉技術』
現代の新技術はネットや家電を通じて日常の隅々に入り込み、私たちの選好を先取りして応えたり、人間関係の希薄さを埋めたりもする。これらの技術を、知らないうちに主体性を侵食する「脅威」とみなすことも、逆に社会秩序形成に役立つと「待望」することも、時代により変化する人間性への理解の硬直だと著者はいう。近年の論争を整理し、技術との「協働」をめざす道を提起する。(集英社新書・778円)
森達也著『ニュースの深き欲望』
フェイク・ニュースが世をかけめぐるなかで、私たちはむしろ〈虚偽と真実〉〈正義と悪〉という単純な思考に陥っているのではないか。著者は、ゴーストライター事件後の佐村河内守氏を撮ったドキュメンタリー「FAKE」を世界各地の映画祭で上映。それぞれの土地で対話することから、情報、メディア、日本の現在を考察する。(朝日新書・778円)
秦由美子著『パブリック・スクールと日本の名門校』
英国のエリートが輩出してきたパブリック・スクールは、リーダーを育てる独自の理念や寮生活を通しての人間教育、教員の専門性を生かした教育方針を貫いている。取材をもとに、日本の中高一貫校の実例を対応させて相違と共通性をあぶり出し、教育に求められる思考力や人間性の滋養のあり方を探る。(平凡社新書・907円)