- 『限界点』(上・下) ジェフリー・ディーヴァー著 土屋晃訳 文春文庫 上810円、下778円
- 『海を撃つ』 吉村龍一著 ポプラ文庫 691円
- 『白石城死守』 山本周五郎著 講談社文庫 583円
(1)は、刑事一家を狙う凄腕(すごうで)の殺し屋から一家を守る警護官の物語。相手の裏をかき、罠(わな)を仕掛け、ときに罠そのものになりながら戦いを挑む。どんでん返しの王者ディーヴァーらしく随所にツイストをきかせ、サスペンスを高め、驚きの声をあげさせる。真相が明かされる終盤は劇的で、エピローグもニヤリだ。
(2)は、巨大メカジキを追う老漁師の話で、いわば三陸版『老人と海』。文体は喚起力に富み、物語はダイナミックで、最後はほとんど神話のような輝きをもつ。「百年後にも必ずこの物語を欲する読者がいると思う」(桜木紫乃の推薦文)に納得だ。
(3)は、48年ぶりに復刊された傑作短編集。命を賭して籠城(ろうじょう)を決めた男たちを描く表題作と、一人の女性の苦悩を切々と捉える「菊屋敷」が特に素晴らしく、しみじみとした味わいをもつ。山本は没後50年で著作権フリー、次々と上梓(じょうし)されているが『五瓣(べん)の椿』(角川文庫)も必読。ウールリッチ『黒衣の花嫁』を見事に換骨奪胎したエモーショナルな秀作だ。=朝日新聞2018年02月25日掲載