- 『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』 ジョイス・キャロル・オーツ著 栩木玲子訳 河出文庫 1404円
- 『アリスマ王の愛した魔物』 小川一水著 ハヤカワ文庫 756円
- 『修道女フィデルマの挑戦』 ピーター・トレメイン著 甲斐萬里江訳 創元推理文庫 1058円
今回ご紹介するのは、いずれ劣らぬ傑作揃(ぞろ)いの短編集。
(1)は残酷で恐ろしくて美しい物語。人の心がゆがみ、ねじれ、ささくれていく様を怜悧(れいり)な筆致で切り取っていく。目が離せない切れ味の鋭い刃物のような、蠱惑(こわく)的な恐怖。行く先は暗闇、そうわかっていてもページをめくる手が止まらない。
(2)SFを読む醍醐味(だいごみ)がしっかり詰まった一冊。温かく、優しく、心地良い。算術の天才アリスマ王が作り出した、森羅万象を計算し尽くす機関「算廠(しょう)」、それがはじき出した最後の答えとは。人と、人ならざるものの間に橋を架ける短編たち。
(3)新刊が出るのを楽しみに待っているシリーズ。7世紀のアイルランドを舞台に、美貌(びぼう)の修道女にして王女、弁護士であり裁判官のフィデルマが探偵役として活躍する。見事な論理で謎を解きほぐしていくフィデルマ、そして現代日本より遥(はる)かに洗練されているのではないかと思われる古代アイルランドの法にも舌を巻く。=朝日新聞2018年01月28日掲載