- 『電車道』 磯﨑憲一郎著 新潮文庫 562円
- 『太宰治の辞書』 北村薫著 創元推理文庫 756円
- 『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 小林一茶』 大谷弘至編 角川ソフィア文庫 821円
長い時間を通して、人間の普遍的な想(おも)いが浮き彫りになる。そんな3冊。
(1)は、明治から現代に至る鉄道の発展とその周囲に生きる人々の生き様を多角的に描いた小説。小田急線がモデルのようだが、鉄道がもたらす周辺地域の変遷を、主体を変えつつ独特の文体で自在に伝えている。日常的に使う電車だが、完成に至るまでの思惑やドラマを思うと、レールさえも趣深くなる。
(2)は、「円紫さんと私」シリーズの最新刊。若い頃から無類の本好きで編集者となった「私」は、太宰治や芥川龍之介らが書き残したテキストに謎を見つけ出す。図書館、文学館、古本屋等(など)をこまめに当たり、落語家の円紫さんらの助言を聞き、あの文言の秘密が審(つまび)らかになる……。スリルを味わうと共に、名著から滲(にじ)む人間味に浸った。
小林一茶の句を読みときつつその壮絶な人生を知る、という意味で伝記としても楽しめる(3)。どんな苦境でも愛とユーモアを決して忘れない一茶の句は、永遠に強い。=朝日新聞2017年11月19日