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辻山良雄が薦める文庫この新刊!

  1. 『ビブリオ漫画文庫』 山田英生編 ちくま文庫 842円
  2. 『桜の森の満開の下』 近藤ようこ漫画 坂口安吾原作 岩波現代文庫 864円
  3. 『えほんのせかい こどものせかい』 松岡享子著 文春文庫 734円

 一冊の本に魅せられた人は、いつのまにか、その本から魂をも吸い取られてしまうのかもしれない。(1)はつげ義春、諸星大二郎、永島慎二などひと癖ある漫画家たちの描く、「本」をめぐる悲喜こもごもの物語。当欄の読者であれば、身に覚えがある話が多いのではないかと推察する。
 坂口安吾の代表作に、現代の漫画家が挑んだ(2)は、多くの無惨(むざん)な死が描かれながらも、静謐(せいひつ)さが通底する不思議な読後感。人の心に存在する底知れない闇を掬(すく)い取る筆さばきは鮮やかで、描かれた自然のかぐわしさがつんと残る。目の前の世界をひと皮めくれば、狂気が口を開けて待っているようだ。
 (3)では長年子ども図書館に関わった著者が、「子どもが本当によろこぶ絵本とは何か」を考えた。読み聞かせなどの実体験や、児童文学の研究をする中で出合った、子どもに生き抜く力を与える絵本を紹介する。古典として残る絵本には、情と理が一体となったような厚みがあり、読み継がれることは偶然ではない。=朝日新聞2017年10月22日掲載