作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん(95)と、秘書の瀬尾まなほさん(29)による「中之島どくしょ会」が11月下旬、大阪市北区の阪急うめだホールであった。瀬尾さんが寂聴さんとの日々をつづったエッセー集『おちゃめに100歳! 寂聴さん』(光文社・1404円)を出したのにあわせて開かれ、秘書になったきっかけや、笑いの絶えない日常生活などについて語った。
笑い絶えぬ日常、作らずに書く
寂聴さんと66歳離れた瀬尾さんが、京都・嵯峨野の「寂庵(じゃくあん)」に入ったのは2011年3月。きっかけは、寂聴さんとなじみのお茶屋さんで働く友人から、「ぴったりの仕事があるから、信じて」と何の情報もないまま勧められ、面接を受けたことだったという。
「本当に尼さんということしか知らなかった」という瀬尾さん。寂聴さんは「私が小説家であることも知らないし、何を聞いてもトンチンカン。面白いから『じゃあ来てみる?』と言うと、びっくりしていた」と振り返った。
瀬尾さんは、掃除やご飯の用意、スケジュール管理などに加え、寂聴さんの化粧の手伝いもするという。「よくおばあちゃんと孫みたい、と言われるけど、私にとって先生は先生。でも、『そういえば、95歳だったよね』と驚くほど気が若い」と話す。
寂聴さんは「顔のマッサージをしてくれながら、『どうしてこんなに鼻筋がないんでしょうね』、なんて言うの」と笑ったが、「今日はどんな変なこと言うのかな」と思って過ごせるのが楽しいとも。「健康になるには、笑うのが一番。笑って朝が来ると、その日は一日いいことがある」と語った。
瀬尾さんが本を書くきっかけは、寂庵で30年近く出している定期刊行誌に、寂聴さんとのエピソードを書いていたのが、出版社の目にとまったことだ。
「こう書くとファンに怒られるだろうなとか、そういうことは気にせず、作らずに書く」と瀬尾さん。寂聴さんは「よく手紙もくれるが、思ったことをそのまま自分の言葉で書くのが新鮮でいい。うまい文章を書こうとか、そういうところがない」と評価した。
本では、背骨の圧迫骨折や胆嚢(たんのう)がんなど、寂聴さんの近年の闘病生活にも触れる。寂聴さんは「88歳から病気をした。だから皆さんも気をつけて下さいね。88歳から年寄りになるのよ。87歳の人は、今を楽しんでおかなきゃ駄目ですよ」と呼びかけ、笑いを誘ったが、安保法制に反対する国会前の集会に駆けつけるなど、今でも精力的な活動を続ける。瀬尾さんは「先生は、いつも誰かのために行動して、自分の利益のために行動することが一切ない。あれこれ言わず、私にもやるべきことを姿勢で示してくれる」と話した。
瀬尾さんも、貧困や虐待に苦しむ女性を支援する活動を始めている。寂聴さんからは「自分のことだけを考えていちゃ駄目。自分と世界、自分と日本ということをいつも意識して生きなさい」と言われたといい、「最初はどういうことかわからなかったが、自分より若い女の子が苦しんでいると、気が気ではなくなる。これが社会と関わるということなのかな」。
寂聴さんは「今回の本は自分の身近なことしか書いてないけど、やがて大きなものが書けるようになるのでは」と期待する一方、「でも小説はちょっと無理かな」と、ちゃめっ気たっぷりに話した。会場から「あと10年生きるとしたら何がしたいか」と問われると、「やっぱり小説を書き続けたい。ほかに、何もできないものね」と語った。(聞き手・岡田匠、文・渡義人)=朝日新聞2017年12月24日掲載