一冊の本は、さまざまな人たちの仕事の結晶。小説『本のエンドロール』(安藤祐介著、講談社・1782円)を読んで、改めてそう感じた。
主人公は印刷会社の営業部員・浦本学。32歳で主に文芸書を担当している。出版社から仕事を取り、工場の印刷機の稼働率を上げるのが使命だ。プロローグに「この先本が売れなくなるのは火を見るより明らかで、印刷業界は客観的に見れば斜陽産業、沈みかけた船だ」という言葉がある。浦本は奮闘するが、常に葛藤が隣り合わせ。
作家、編集者、装丁家、印刷会社や製本会社の人々の仕事もきめ細かに、愛情を込めて描かれる。著者の3年にわたる取材の成果だろう。「一冊の本が読者の心を突き動かし、人生を変えることもある」という一文は本に携わる人たちの矜恃(きょうじ)だ。
本のエンドロールとは奥付のこと。著者、発行者、出版社、印刷所、製本所などが載っている。この本では、さらに工夫が凝らされ、まるで映画のようなエンドロールが。温かな余韻が残る。
(西秀治)=朝日新聞2018年4月7日掲載
編集部一押し!
- 季節の地図 小説の時間 柴崎友香 柴崎友香
-
- 新作映画、もっと楽しむ 映画「がんばっていきまっしょい」雨宮天さん・伊藤美来さんインタビュー ボート部高校生の青春、初アニメ化 坂田未希子
-
- 杉江松恋「日出る処のニューヒット」 逸木裕「彼女が探偵でなければ」 次代を担う作家が示す最高到達点、単純な二項対立にしない物語の厚み(第19回) 杉江松恋
- トピック ポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」が100回を迎えました! 好書好日編集部
- ニュース 読書の秋、9都市でイベント「BOOK MEETS NEXT」10月26日から 朝日新聞文化部
- トピック 「第11回 料理レシピ本大賞 in Japan」受賞4作品を計20名様にプレゼント 好書好日編集部
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社
- インタビュー 物語の主人公になりにくい仕事こそ描きたい 寺地はるなさん「こまどりたちが歌うなら」インタビュー PR by 集英社
- インタビュー 井上荒野さん「照子と瑠衣」インタビュー 世代を超えた痛快シスターフッドは、読む「生きる希望」 PR by 祥伝社