貧乏作家時代から自炊していた自分だが、芥川賞受賞後テレビの仕事にも呼ばれるようになると、用意されている弁当を食べるようになった。
予算の豊富な地上波番組の弁当は、まあ豪華である。特にテレビ朝日の弁当は素晴らしい。
楽屋に二、三個の異なる種類の弁当が置かれ、廊下にはまた他の種類の弁当が置かれる。魚弁当、豚生姜(しょうが)焼き弁当、フライ弁当の中から二つくらい選び、一人で食べてしまう。収録に六、七時間も要するような番組だと、中休憩の頃にまた別の弁当が楽屋や廊下に補充され、ムシャムシャ食べてしまう。
弁当の中で男性陣に評判がいいのは、中華弁当だ。チンジャオロース、麻婆豆腐、エビチリなどといった三点以上のメニューに白いご飯やチャーハンが入っていたりする。楽屋に余らせたものは家に持って帰るほどに。
とある番組で、楽屋に出される弁当のカロリーを検証するという企画があったが、中華弁当のカロリーはどれも一〇〇〇キロカロリー超えで、まあ健康に悪い。それを知っても、食べることを止められなかった。長年自炊で同じ料理を食べ続けてきたからこそ、弁当の味が珍しく、食べてしまうのだ。
フジテレビで番組によっては用意される、ケータリングも素晴らしい。メインメニューを選び、サラダにドレッシング、ご飯の量を調整してもらい、楽屋に持ち帰り食べる。湾岸スタジオで初めて食べたケータリングの、ブラックハヤシカレーのおいしさと感動は、忘れられない。
『成功者K』という小説にも書いたが、テレビ局でなされることにはバーチャル感が伴うため、そこで出される弁当には、カロリーがないかのような錯覚に陥る。食べたぶんだけ順調に太っていったのに。健康には良くない。
それでも、どんな番組でも、弁当は用意した方がいい。
午後二時から収録開始のバラエティ番組があり、出演者の入り時刻が午後一時頃だった。昼に収録するバラエティ番組で弁当が出されないことはまずない。しかしその番組では、弁当がなかった。近くにコンビニもない。弁当をあてにし朝食も摂っていなかったため空腹でいらついたが、我慢してスタジオに向かう。すると、出演者の女性モデルとそのマネージャー達と一緒のエレベーターに乗ったのだが、女性たち全員、弁当がなかったことへの不満を口にしていた。
収録中も、時間が経つにつれ明らかに、出演者たちの元気がなくなっていった。たぶん、空腹でエネルギーが切れていたのだと思う。せめて一人一個ぶんの弁当は、用意したほうがいいのだ。=朝日新聞2017年06月17日掲載
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