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「スポットライト 世紀のスクープ―カトリック教会の大罪」書評 しがらみを越え保身の構図暴く

評者: 市田隆 / 朝⽇新聞掲載:2016年05月15日
スポットライト世紀のスクープ カトリック教会の大罪 著者:ボストン・グローブ紙《スポットライト》チーム 出版社:竹書房 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784801907201
発売⽇: 2016/04/07
サイズ: 19cm/343p

スポットライト 世紀のスクープ―カトリック教会の大罪 [編]ボストン・グローブ紙《スポットライト》チーム

 米国の地方新聞「ボストン・グローブ」は2002年1月、地元ボストンで過去10年間にカトリック教会の司祭計70人が児童に性的虐待を行い、教会組織がそれを隠蔽(いんぺい)してきた事実をスクープした。本書は、取材チームの記事をもとにしたノンフィクションだ。
 日本で公開中の同名映画は、担当記者が被害者の証言や裏付け資料を集め、スクープにこぎつける姿を描いたドキュメンタリーに近い内容だった。本書では、記者の取材過程は最小限にとどめ、司祭らの性的虐待の実態と、教会上層部が問題解決から目をそらし、いかに隠し続けたかの記述に重点が置かれている。
 主な被害者は、教会に出入りする少年たちだ。名前を覚えきれないほど多数の司祭が登場し、相手からの信用を悪用し、虐待を繰り返したことが詳しく述べられる。この多数の例示により、問題の不気味な奥深さが強く伝わってくる。
 また、教会の上層部は虐待を把握しても厳しい処分を下さず、被害者との示談で不祥事を表沙汰にしなかった。日本の企業社会にも通じる保身の構図の解明は我々にも教訓を与える。
 ボストンは都市部に住む市民のうち二百万人以上がカトリック教徒。人口の半分以上にあたるという。そこで尊敬される存在の司祭の性的虐待と教会の隠蔽を暴くことは、地元紙にとって身内の恥をさらけ出すに等しい。宗教的なしがらみは、日本人には理解しえない重みがあるだろう。しかし、被害者が抱える痛みを知った記者たちはそのしがらみを乗り越え、報道に踏み切った。同業者としてその覚悟にうたれた。この特報から学ぶことは多い。
 倫理意識が高いはずの司祭らがなぜ性的虐待を繰り返したのか。報道後は世界各地で問題が明らかになった。本書でも、司祭の独身主義などの原因考察が行われるが、霧が晴れた感はない。司祭の内面の闇を明かすべく、今でも取材を続けている記者がいるだろう。
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 「スポットライト」はボストン・グローブ紙の調査報道班が担う特集記事欄。2003年にピューリッツアー賞