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「えがない えほん」 声に出して読めば笑いの連鎖

えがない えほん [著]B・J・ノヴァク

 タイトル通り、絵がない。白いページに文字だけだ。文字は大きさや色や書体を変えて工夫しているけれど、なにせ絵がないから味気ない。普通に読んでも、正直、おもしろくない。
 ところが、読者にたった一つのルールを課したことによって大ベストセラーに化けた。「かかれていることばは ぜんぶこえに だしてよむこと」。読み聞かせに特化した本なのだ。
 帯のQRコードにスマホをかざすと、著者や訳者が子どもに読み聞かせている動画が現れた。子どもたちは床を転げ回って大笑い。見学中の親も笑ってる。つられて、こちらもニヤニヤ。笑いが連鎖するのだ。
 子どもが笑うポイントは、擬音と変な日本語。大人が照れずに真面目に読むと「おバカ」な中身との落差が際立ち、効果が倍増するようだ。絵がないのに、みんなページに釘付け。
 著者のB・J・ノヴァクは、アメリカの人気俳優でコメディアンで脚本家。肩書きではよくわからないので、第一作の『愛を返品した男』を読んでみた。食べたものを全部ネットに上げる男の話、地球全体を映す鏡をつくった億万長者の話、セックス目的に作ったAIロボットに愛されてしまったために返品した男の話など、ユーモアたっぷりの短編ばかり。皮肉屋で面倒くさそうだけど憎めない主人公たちは、著者の分身だろうか。
 幼なじみに宛てた謝辞に素顔が垣間見えた。少し長いけど引用する。「翌日の教室で君たちを笑わせたいばかりに、僕はよく夜遅くまで話を書いたものだった。君たちのおかげで僕は書くことにおける大事なことを一点学んだ。ここで紹介するのにふさわしいと思う。君の隣の席の子のために書くんだ」(同前)
 『えがない えほん』もきっと大切な「君」に贈る本なのだろう。ミュージシャンでマジシャンでもある訳者の遊び心いっぱいの翻訳も相まって、最後まで子どもたちを捉えて離さない。「おならぷ〜!」だなんて、しかめっ面の大人も丸ハダカ。
 最相葉月(ノンフィクションライター)
    ◇
 大友剛訳、早川書房・1404円=18刷18万6500部。2017年11月刊行。訳者による読み聞かせ動画がテレビで取り上げられるなど話題に。プレゼントとしても人気だという。=朝日新聞2018年5月5日掲載