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ゲーム通して世界眺める 作家・円城塔

  • アーネスト・クライン『アルマダ』(上下)(池田真紀子訳、ハヤカワ文庫SF)
  • ピーター・トライアス『メカ・サムライ・エンパイア』(中原尚哉訳、早川書房)
  • D・H・ウィルソンほか編『スタートボタンを押してください』(中原尚哉・古沢嘉通訳、創元SF文庫)

 デビュー小説が、スティーブン・スピルバーグ監督で「レディ・プレイヤー1」として映画化された、アーネスト・クラインの新作が『アルマダ』である。
 主人公は異星人の宇宙艦隊と戦うという設定のゲームにのめりこんでいる男子高校生。もてない。
 そんな彼の日常は、ゲームに登場するのとそっくりな戦闘機が目の前に現れたことで一変し、地球の命運をかけた戦いに巻き込まれていくことになる。文化史としてのゲームと惑星間戦争の戦略をたくみに重ね合わせる手際よりも気になるのは、主人公の切迫感のなさっぷりで、とにかくサブカルチャーの話ばかりしている。かつてここまでぼんくらな主人公がいたかどうか思い出せない。
 2017年の本屋大賞で翻訳小説部門2位となり、星雲賞も受賞した『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の続編が『メカ・サムライ・エンパイア』。
 舞台は第2次世界大戦で、ドイツと日本が勝利した世界。今作の主人公は、前作ではあまり前面に出てこなかった巨大ロボットのパイロットである。アメリカが敗北し大日本帝国が栄える世界は理不尽がまかりとおり続けている。
 主人公はドイツの巨大ロボットと死闘を繰り広げることになるのだが、こちらの作品にもゲームが主要な要素として登場するし、『アルマダ』でも巨大ロボットが重要な役割を果たしていた。
 どちらも日本の映画やアニメからの影響を強く受けており、英語圏の文化を経由した日本発のゲーム、巨大ロボットものの「里帰り」といった雰囲気がある。
 この2作の作者はともに1970年代生まれ。『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』を眺めてみると、こちらでもその世代の作家が目立つ。
 収録作のいくつかは、現実とゲームの世界が入り混じったところからはじまり、またいくつかは、ゲームとの相互作用が世界の捉え方を変えていく。
 現実とゲームの区別がつかないという言い方があるが、ゲームを通して世界を眺めることが当たり前となった世代が台頭しつつあるようで、この文化は根づくのかどうか。=朝日新聞2018年5月13日掲載