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冗舌に思い伝えられるのが漫画 ちばてつやさん「ひねもすのたり日記(1)」

 18年ぶりの新作単行本だ。青年漫画誌ビッグコミックに連載中の作品で、1回の分量は4ページ。「長編小説を書いてきたのが、俳句を書く人になったみたい。ときどき字余りになるけれど」
 東京で生まれたが、生後すぐに日本を離れ、終戦まで旧満州の奉天市(現・瀋陽市)で育つ。過酷な引き揚げ体験が作品に出てくる。父の知人にかくまわれた屋根裏部屋で、弟たちのために描いた絵が漫画家としての原点だった。引き揚げ船の中で死者が続出。「人間って……かんたんに死んでしまうんだ」と思い知った。
 「戦争を体験した人間として、若い人たちに伝えといた方がいいのかなと思って」
 老いの日常も描かれている。病院に薬を忘れてきたり、散歩に出て道に迷い、家に帰れなくなったりする。「おバカな日常をうまく伝えたいと、描いては消し、描いては消し。でも、とても楽しいですよ」
 漫画家仲間との交友の場面も登場するが、ある人からは「苦情」も。「ちばちゃんは自分のことはかわいく描くのに、俺たちのことは憎らしく描く」
 自宅の応接間には「あしたのジョー」の大きなパネルが掲げられている。連載が始まったのは、ちょうど50年前。「体力的にも精神的にも追い詰められたが、充実していた。それまで漫画家と呼ばれても自信がなかったけれど、読者に認めてもらえて、この道しかないと確信した作品」と語る。
 当時、忙しい最中にファンの大学生たちが酔っ払って激励の電話をかけてきた。次々と電話口に出て、最後は教授や飲み屋の女将(おかみ)まで。「うれしいやら、困ってしまうやら」。いい思い出だ。
 「漫画って、紙と鉛筆があればいい。人間でも動物でも、楽しいのか悲しいのか、ひと目で分かる。私は本来、引きこもりで無口ですが、漫画だと冗舌に自分の思いを伝えることができる」
 来年、80歳。「その年齢に応じて感じたことを、頼りない線でもいいから描けたらいい。多分、生きている限り描いていると思いますよ」
 (文・西秀治 写真・飯塚悟)=朝日新聞2018年2月18日掲載