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池上冬樹が薦める文庫この新刊!

  1. 『冬の炎』 グレン・エリック・ハミルトン著、山中朝晶訳 ハヤカワ文庫 1209円
  2. 『現代詩人探偵』 紅玉いづき著 創元推理文庫 799円
  3. 『トリダシ』 本城雅人著 文春文庫 918円

 (1)は、最優秀新人賞3冠に輝いた秀作『眠る狼(おおかみ)』に続く元レンジャー、バン・ショウものの第2作。幼馴染(おさななじ)みの女性が殺された事件を追及する物語には、相変わらず緊迫感みなぎる活劇と本格的な謎解きがある。プロの泥棒であった祖父との思い出には青春小説の輝きがあるし、アフガン戦争時代の戦友の登場で、悪夢に悩む帰還兵問題も提示して奥行きが深い。ぜひ第1作から読んでほしい。
 (2)は、かつて「探偵」という詩を書いた「僕」が詩人仲間の死因を探る内容である。感情の塗り絵の部分もあるのだが、それでも痛々しいまでの若さを切々と捉える文章には魅力がある。眩(まぶ)しいまでの青春というフィルターを通して浮かび上がる生々しい苦悩と悲哀。たとえ不安と絶望があっても生きていく価値があることを静かに教えてくれる。いい小説だ。
 (3)は、スポーツ紙を舞台にした連作で、毎回視点は変わるが、中心はデスクの鳥飼。「とりあえずニュース出せ」が口癖なので「トリダシ」。極めて優秀で敵も多いが、あらゆるところに情報源をもつ。女性記者がスター選手の引退宣言を独占しようと画策する「スクープ」から新監督人事のスクープを争う「逆転」まで7編。ネタをめぐる取材合戦は実に波瀾(はらん)に富んでいて面白い。長編としての骨格も優れており、短編や人物たちの役割が伏線にもなっていて、鳥飼の人物像を多角的に見せつつ、人間ドラマを沸騰させていく。
 帯に「この作者は巧みな投手だ。球筋の読めない心理戦に翻弄(ほんろう)された」(横山秀夫)とあるが、まさに球(話の展開)がどこに向かうのか読めないし、記者たちの手柄争いも、過去の因縁を交えていちだんと白熱化する。時には社内での反目(特に鳥飼への対抗心)が表面化し、主導権争いが激化する過程もたまらない。ここには、組織と個人の対立を通して些細(ささい)な事件から人間の生き方の是非を問いかけるような横山秀夫の作品に似た熱く激しい物語がある。社会部の記者たちを描く新作『傍流の記者』(新潮社)もいいが、まずは(3)だ。必読!
 (文芸評論家)=朝日新聞2018年5月19日掲載