青来有一「人間のしわざ」書評 長崎という地の延長に
評者: / 朝⽇新聞掲載:2015年05月31日
人間のしわざ
著者:青来 有一
出版社:集英社
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784087716016
発売⽇: 2015/04/03
サイズ: 20cm/182p
人間のしわざ [著]青来有一
男は世界の紛争地を歩き、「人間のしわざ」のむごさを写真に収め続けてきた。その脳裏に、郷里の長崎で目にした教皇ヨハネ・パウロ二世の姿が繰り返し現れる。
直前に訪れた広島で「戦争は人間のしわざです」と語ったというその人を囲む群衆に、男はかつて長崎で命を落とした殉教者たちの姿を重ねる。戦地の惨状が人間のしわざなら、神は、信仰は何もしてくれないのか——。救いのない問いにさまよい、男は心の平衡を失っていく。
長崎という土地の記憶に向き合ってきた著者が、今作では世界の紛争やテロを視線の延長線上にとらえた。重ねる問いの先に、人間のもろさと強さが浮かび上がる。
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集英社・1620円