鹿島田真希「少女のための秘密の聖書」書評 女性たちが血肉化した矛盾
評者: いとうせいこう
/ 朝⽇新聞掲載:2015年02月22日
少女のための秘密の聖書
著者:鹿島田 真希
出版社:新潮社
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784104695058
発売⽇: 2014/12/22
サイズ: 20cm/223p
少女のための秘密の聖書 [著]鹿島田真希
一人の少女がいて、中学1年生で思春期で、血のつながらない父と血のつながった母と暮らし、裏のアパートの店子である浪人生の青年の部屋へ、彼が滞納している家賃を取りに行く。青年はパンティー泥棒だと噂(うわさ)されている。
「お兄さん」と呼ばれる青年は、訪ねてきた少女に旧約聖書の話をする。少女は月に一度ずつ、創世神話やモーセの出エジプト、さまようイスラエルの民のことを知り、自分の周囲の世界との比較をしながら、彼女なりのとても肉感的な理解を進めていく。
義理の父は性的ないたずらを仕掛けてくる。母は女であることを枠組みとして押しつけてくる。やがて現れる一人の少年は、少女に暴力的な言葉を吐くことで世界の曖昧(あいまい)なベールを切断してみせる。
女からの、それも少女からの聖書。理不尽な「父」の命令の中で、女性たちが血肉化し、ひとつの体に受け止め、食べ尽くしてきた矛盾。
鹿島田記、というべき言葉の顕(あらわ)れが本書である。
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新潮社・1728円