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「秘島図鑑」書評 冒険か現実逃避か、絶海の誘惑

評者: 島田雅彦 / 朝⽇新聞掲載:2015年10月18日
秘島図鑑 著者:清水 浩史 出版社:河出書房新社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784309276151
発売⽇: 2015/07/27
サイズ: 21cm/221p

秘島図鑑 [著]清水浩史

 もはや秘境は何処(どこ)にもないといわれるが、島国日本にはまだ行くのが困難極まる島々が少なからずある。植民開拓の機運高まる明治時代にはアホウドリの羽毛や肥料になる糞(ふん)の堆積(たいせき)物などを求めて、絶海の孤島を目指した冒険的事業者もいた。島国に暮らす者なら誰でも無意識のうちにロビンソン・クルーソー幻想を抱えているに違いない。
 本書で紹介されている無人島に行くには相当の無理をしなければならない。そこは人が暮らすことができないからこそ無人島なのであり、実際に行ったところで生存の危機に晒(さら)されるだけなのだが、それゆえに誘惑される。それは単なる現実逃避を超えたタナトスの発露かもしれない。また、実際に行ったことのある人を羨(うらや)む心理は、無人島を無人のままにしておいて欲しいという願いとセットになっている。秘島は本来、自然状態のまま保護されるのが理想だが、領有権が絡んだとたんに紛争地に変わってしまう。
    ◇
 河出書房新社・1728円