- 宮部みゆき『あやかし草紙 三島屋変調百物語 伍之続』(KADOKAWA)
- 山尾悠子『飛ぶ孔雀』(文芸春秋)
- 中村圭子編『挿絵叢書6 茂田井武(一) 幻想・エキゾチカ』(皓星社)
江戸時代、寺院には説教僧と呼ばれるエンターテイナーがいて、善男善女を相手にハラハラドキドキの物語を語り聞かせては人気を集めていたという。講談落語の源流ともいわれるが、中でも特に人気の高い演目が、怖い話や不思議な話だった。近世怪談文芸の名著『伽婢子(おとぎぼうこ)』の著者・浅井了意も説教僧出身だとか。
そんな元祖エンタメの流れを汲(く)む怪談やホラー、幻想文学の注目新刊を紹介しよう。
『あやかし草紙』は〈三島屋変調百物語〉連作の最新作にして「第一期完結篇(へん)」。百物語とは怪談会のことで、江戸時代に大流行した。百物語形式の怪談集も数多(あまた)あるが、宮部作品のような大部にわたる連作は史上空前、10年ほど前にシリーズが開幕したときには、その壮図に瞠目(どうもく)かつ大昂奮(こうふん)させられたものだ。
神田の袋物店・三島屋に身を寄せるヒロインおちかが、怪しい話の体験者と対座し、恐怖と悲哀の物語に一心に耳をかたむける……今回も巻頭の「開けずの間」から、人の心の澱(よど)みに付け入る魔のもののおぞましさが全開である。
そんな話中話の容赦ない陰惨さや哀れさが、おちかと仲間たちによる連携プレーで絶妙に中和され、心なごむ読後感をもたらす点が長く愛読される所以(ゆえん)だろう。最終話で明かされる新展開も愉(たの)しみだ。
『飛ぶ孔雀(くじゃく)』は、選び抜かれた言葉のみで精緻(せいち)に築かれる異世界を、ときにこわごわ手探りで、ときに驚嘆しながら足どり軽く、心ゆくまで逍遥(しょうよう)するという幻想文学本来の愉悦を満喫させてくれる一冊。
その点では玲瓏(れいろう)不変の山尾宇宙なのだが、今回は随処(ずいしょ)に作者の故郷である岡山のトポスが見え隠れしている印象をうけるのが興味深かった。岡山が生んだもう一人の幻視者内田百閒の世界と比較してみたい誘惑しきり。孔雀鶴!?
はばたく怪鳥といえば『茂田井武(一)』の巻頭カラー口絵「薄暮通り魔の景」に描かれる、鳥に似た魔物の図には、ひとめ見るなり魅了された。ただし本書は画集ではなく、茂田井が挿絵を担当した横溝正史や小栗虫太郎、橘外男や西尾正らの怪奇幻想譚(たん)を挿絵と共に収録する好アンソロジー。虫太郎の愛娘(まなむすめ)で夭折(ようせつ)した小栗栄子の童謡「おばけ峠」が、幽暗な挿絵とセットで初復刻されたのは快挙だ。=朝日新聞2018年6月10日掲載