道尾秀介「貘の檻」書評 少しずつ重なり合う
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2014年06月15日
貘の檻
著者:道尾 秀介
出版社:新潮社
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784103003366
発売⽇: 2014/04/22
サイズ: 20cm/422p
貘の檻 [編]道尾秀介
嫌な夢を見た時、夢で良かったと思う。しかしそれは本当に夢だったのだろうか。作品ごとに作風を変えてきた作家の、8年ぶりの書き下ろし長編。幻想と仕掛けで楽しませるミステリー。
主人公の男は失職し、離婚している。月に1度だけ会える息子を見送った後、目の前で女が電車にはねられた。死の直前、女はこちらを見ていた。彼女の名前は、主人公に古い事件を思い出させる。
32年前の真相を知るため、少年時代を過ごした信州の村へ。山にめぐらされた水路、一枚の写真。美しさとまがまがしさが作品を覆う。夢と現実は少しずつ重なり合うが、そうして浮かんできた真実が、また違う顔を見せる。
◇
(新潮社・1944円)