蜂飼耳「おいしそうな草」書評 言葉に内在する力を見つめる
評者: 水無田気流
/ 朝⽇新聞掲載:2014年06月08日
おいしそうな草
著者:蜂飼 耳
出版社:岩波書店
ジャンル:自然科学・環境
ISBN: 9784000259552
発売⽇:
サイズ: 20cm/177p
おいしそうな草 [著]蜂飼耳
言葉は文字通り言の葉。豊かで目に鮮やかな表象が、「葉」の字を当てさせたのだろうか。だが、筆者はあえて「草」を選ぶ。その低い視線は、通常視界に入らないものを、丹念にとらえて見せてくれる。引用される言葉は、八木重吉、西脇順三郎、中原中也、高橋睦郎、石原吉郎、左川ちかなど、百花繚乱(ひゃっかりょうらん)。だが、単なる解説とは一線を画す。
圧巻は、表題となった「おいしそうな草」の一節。鈴木志郎康(しろうやす)の詩「雑草の記憶」を引き、言葉なき雑草が「私」を通して言葉になろうとする刹那(せつな)を切り取る。そのとき「私」が雑草になりかけ、言葉がそれをおしとどめる、とも。「言葉が、人間とその他のものを区分して、限られた生を言葉の灯(あか)りで生きるようにと、うながす」が、「牛や馬、羊ならば思うだろう。おいしそうな草、と」。草を掻(か)き分け食らう動物と、言葉とともに繁茂する人間との差異。言葉の表皮を削(そ)ぎ落とし、内在する生成力そのものへの注視が連ねられた文集である。
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岩波書店・1836円