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美術と福祉のはざまにある偶像

山下清と昭和の美術 「裸の大将」の神話を超えて 著者:服部 正 出版社:名古屋大学出版会 ジャンル:芸術・アート

価格:6048円
ISBN: 9784815807627
発売⽇:
サイズ: 22cm/467,56p

「日本のゴッホ」等の綽名=イメージを与えられてきた美術家・山下清。その貼絵が大衆に愛され続ける一方、芸術の世界にも福祉の世界にも落ち着く場所のなかった彼の存在を通して、昭…

評者:佐倉統 / 朝⽇新聞掲載:2014年05月11日

山下清と昭和の美術―「裸の大将」の神話を超えて [編]服部正、藤原貞朗

 山下清の作品を初めてじっくり見たのは、3年前、長野県茅野市の《放浪美術館》を別用のついでに訪問したときだ。その緻密(ちみつ)、繊細、艶(つや)やかな作品群は、ぼくが漠然と抱いていた無骨で素朴という山下清のイメージを根こそぎくつがえした。さらに驚いたのは、山下清の作品や生涯を俯瞰(ふかん)した手頃な研究書が、美術館の売店でほとんど見当たらなかったことだ。
 なぜ、ぼくは、それまで山下清の作品は素朴だと勝手に決めてかかっていたのか? なぜ、見通しのよい山下清論が書かれていなかったのか? この二つの謎が、以来、喉(のど)にささった魚の骨のようにずっと気になっていたのだが、ようやくこの本によって、それらについての明快な回答が得られた。読み終わって、ぼくはとても満足している。
 山下清は美術界からは「精薄の特異作家」としてまともに相手にされず、福祉の世界では「健常者と対等に渡り合える例外的存在」としてやはり特別視された。美術と福祉、両者のはざまにぽとりと落ちてしまった存在は、両方の世界を俯瞰しなければ定位できず、それはとてつもなくも困難な作業だったのである。
 著者二人はこの難事を、膨大な資料を収集し、丁寧に論述を積み上げていくことでなしとげた。社会に定着した山下清の偶像を洗い直していくその手際は、見事である。
 山下清は鏡のような存在だ。あるときは天才的な狂人としてゴッホになぞらえられ、またあるときは自由に放浪する特異画家、あるいは社会的タブーについても歯に衣(きぬ)着せず発言する《裸の大将》となる。これらのイメージには、語る者たちが障害者を思う姿こそが反映されている。
 本書は、その《鏡》に映る自分の姿を改めて見つめ直す契機にもなる。二〇二〇年にはパラリンピックが東京で開かれる。今から心の準備をしておいても、早すぎることは決してないだろう。
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 名古屋大学出版会・6048円/はっとり・ただし 甲南大学准教授(文学)、ふじはら・さだお 茨城大学教授(文学)