映画「キングダム 魂の決戦」小栗旬さんインタビュー 天才軍師の背負うものとは
――原作、実写ともに人気作ですが、今作の魅力や面白さをどんなところに感じますか?
昔から原作が好きだったので、今も楽しみに読んでいます。今回の映画は、原作の中でも「合従軍編」をメインに描いています。作品全体でいう前半のかなり目玉となるところで、それぞれの色々な思いやエピソードが散りばめられているお話なので、とても好きな回です。
僕が言えることはかなり少ないのですが、今作の「魂の決戦」においては、李牧という存在がいるからこそ生まれた合従軍である、ということがとても大事な部分だと思っています。
――今作では、秦国以外の六国(楚・趙・魏・韓・燕・斉)の将軍が出陣し、それぞれの背景や思いがあって戦の場に臨んでいることが伝わってきました。
全てにおいて、今回はある意味、プロローグなんですよ。万極(山田裕貴)の話には一つの決着がつきますが、そこには将軍、副将含め、それぞれの生きてきた道みたいなものがある。その思いを知った上で「じゃあお前が勝てばいいよ」となるわけにはいかず、守るべきもののために戦わなければいけないということが全てかなと思いました。
――李牧は「知略・カリスマ・静けさ・危うさ」が同居している人物だと感じましたが、現場で「李牧」として立つ時、意識していた空気感や佇まいなどはありましたか。
あまり熱くならない部分と、清潔感みたいなものは佐藤(信介)監督から言われていた部分でもあるので、そういうところは意識しながらやっていました。
基本的には原作の持つエネルギー、それから原作の李牧というキャラクターに近づければと思いながら演じています。きっと李牧は、いる場所が違えばまた全然違う力を発揮した人じゃないかなと思うんですよ。それに「キングダム」に描かれている李牧は、敵ではあるけれど、かなり悲惨な戦いや環境を強いられた人だと思うし、それでいて彼自身の本当の思いが見えない。そういうところを表現できたらいいなと思って演じていました。
――作中、信と対峙するシーンで「あなたはまだ戦争の本当の恐ろしさを分かっていない」といった李牧のセリフがあります。数多の戦場を経験してきた彼だからこその言葉かと思いますが、その真意を小栗さんは演じていてどう感じましたか?
「力対力」ということだけでは成立しないことが戦にはあるということなのではないかと思いますし、思いや熱量だけでうまくいくものではないという意味合いも込められているのではないかと考えます。
ただ、あのセリフって、意外とそれがそのまま李牧に戻ってくるような言葉だったりするので、とても難しいセリフだなと思っていました。「キングダム」は、原作漫画を読むとキーになるセリフが必ずあるのですが、意外とその言葉を言った後は、うまくいっていない人たちの方が圧倒的に多かったりするんです。
――李牧は冷酷な策士のように見えて、実は人間的な部分があって「この人は一体何を背負っているんだろう」と考えるのですが、小栗さんは李牧という人物を演じてみて、どんな思いがありますか。
李牧は軍師なので、直接戦場に出て戦うわけではないのですが、やっぱりこの人は民の暮らしを確実に考えているはずなんです。そこを守るために戦わなければいけないというのはきっとほかの武将たちも同じで、それぞれが自分たちの国を豊かにしたいと思っているところがあると思います。李牧は「趙」という国を背負い、全部一人で何とかしろと言われている。置かれた立場の大変さと、そこに対する覚悟みたいなものが核になっているんじゃないかなと思います。
――李牧は何を一番恐れている人物だと思いますか?
彼の想像すら超えるような、大きな力の台頭みたいなことなんじゃないですかね。彼の中では割と想像を巡らして、自分ほど何手も先を考えている人間は他にいないだろうなと思っている中で、自分の想像を超えてくるものには多分恐怖を感じるだろうし、畏怖みたいなものがあるんじゃないかな。
彼の立場上、国の滅亡ということも相当恐れていると思います。今の自分たちで例えるなら「日本人という権利を放棄してください」と言われることが、李牧にとっては趙という国が滅ぼされた時に起きてはいけないことで、自分は趙の人間であるというアイデンティティがなくなることを恐れているのではないかなと思います。
――これまで様々な役を演じてきた中で、今の小栗さんだから理解できた李牧像はありましたか?
背負うものの大きさは、やはり年を重ねるごとに増えていくと思います。自分の肩にかかっているものなんて国を背負っている人たちのレベルに比べれば……と思いますが、理解はできるかなと思います。
――では、役を生きる時に一番大切にしていることを教えてください。
自分の好きな演劇のアプローチ法で例えると、自分が小舟だとして、その小舟が到着するまでにみんなそれぞれのアプローチがあってそこにたどり着く。だけど、その舟を降りた後は川の流れに任せなさいというものがあって、そこが一番大事なんじゃないかなと思うんです。つまり、流れていくことに対して、どう自分がリアクションしていくかということを大切にしています。具体的にいうと「人の話を聞く」というような簡単なことになりますが、結局はそれが一番大事なところかなと思っています。
――小栗さんは普段、どんな本を手にすることが多いですか?これまでに影響を受けた本、思い出の一冊や最近読んで印象に残っている本を教えてください。
最近は自分の仕事に関係ないものを読むようにしていて、『〈叱る依存〉がとまらない』(村中直人)は面白かったですね。「叱る」ということのメカニズムや「怒る」ということが人にどんな影響を与えるのか、叱ることと怒ることの違いを分析しているんです。
――その本に興味を持つようになったきっかけは?
子供との関係性の中で、時々自分の思いで理不尽に叱ってしまう時があったので、それをなるべくやめたいなと思ったのがきっかけで読み始めました。あとは『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治)も「なるほどな」と思うことが色々ありました。
――読むジャンルはフィクション、ノンフィクションを問わずですか?
元々は小説が多かったんですけど、途中からどこかで原作探しみたいなことも始めてしまっていたので、最近は色々なジャンルを読んでいます。今までは、一冊読み切らない限りは先に進んではいけない、という謎のルールを自分で持っていたのですが、『本を読む人はうまくいく』(長倉顕太)を読んで目から鱗の思いがしまして。そのマイルールをやめたら圧倒的に読書量が増えたんです。なので、今は常に何冊か本を持っていて、その日の気分でパッと選んで一つのファクターだけ読む、といったことをやっています。自然と多読になれました。
影響を受けて何度も読んでいる本といったら、やはりシェイクスピアの「ハムレット」ですかね。いつ読んでも「どういう気持ちだったんだろうな」と思いますし、そう思う時間が意外と自分の中では好きだったりして。今村翔吾さんの作品も読んでいます。時代劇のエンターテイメントが好きなので、楽しいなと思いながら手にとっています。
――小栗さんが読書から得るものとは何でしょう。
100%、知識ですね。本は読めば読むほど知識を得られるものだと思っているし、読んで損する本ってあまりないなと思います。自分は学生時代勉強してこなかったので、今そのことを非常に悔いていますし、反省してるんです。大人になった今、手っ取り早い教材って確実に本なんですよね。自分がリスペクトしている人たちには影響を受けた本や「どんな本が好きですか?」と聞きます。以前、金城一紀さんに好きな本を何冊も送ってもらったこともありました。そういうことで得る知識はたくさんあります。
――ぜひ、おすすめの本を教えてほしいです。
僕が影響を受けた本でいうと、船戸与一さんの『猛き箱舟』ですかね。傭兵になっていく男の話なのですが、興奮して一気に読みました。あと、中学か高校生くらいの時に兄に勧められて読んだ真保裕一さんの『奪取』も面白かったです。こちらは偽札作りの話で、この2作は小説としてとても好きです。
人から「これは絶対読んだ方がいいよ」と言われて時々読み直しているのは、パウロ・コエーリョの『アルケミスト-夢を旅した少年』です。これは10代の多感な時期に読みたかったなと思う本で、前途洋々な未来が待っている頃に読むと、きっと色々な思いを感じただろうなと思いました。この本は僕の英語の先生から「自分が昔読んだ作品だよ」と教えてもらって読んだのですが、出会った人がどういうものに興味を持っているのかということを知るには、本というものが意外と一番手っ取り早いなと思うんです。