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書評委員の「夏に読みたい3点」①青山七恵さん、石井美保さん、井手英策さん、植原亮さん、梯久美子さん

小説家 青山七恵さん

①田辺聖子 十八歳の日の記録(田辺聖子著、文芸春秋・1760円)
②高丘親王航海記(澁澤龍彦著、文春文庫・836円)
③ミレニアム 1~6巻(スティーグ・ラーソンほか著、ヘレンハルメ美穂ほか訳、ハヤカワ・ミステリ文庫・880~990円)

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 何だかパッとしない夏をお過ごしの方にお薦めの三冊。①戦争末期から敗戦後二年にわたる、一人の小説家志望の少女の日記。のちに大作家となる彼女は、野心も愛国も絶望も最大音量で綴(つづ)った。人生にたいして人はこんなにも張りきれるものなのかと、目が覚める想(おも)い。②天竺(てんじく)を目指す老僧の官能アドベンチャー。次々現れる、夢のなかで見る夢のような光景に呆然(ぼうぜん)。親王は天竺に向かった。じゃあ自分は?と、ふと我に返ったりもする。③二十年遅れで『ミレニアム』に夢中。天才ハッカー、リスベットのパンクっぷりが最高すぎる。最初の三巻は言わずもがな、著者が替わった四巻以降もちゃんとおもしろい。一生に一度は、『ミレニアム』シリーズを読むだけで過ぎていく夏、を過ごしたい。

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文化人類学者 石井美保さん

①みぎわに立って(田尻久子著、里山社・2090円)
②茨木のり子の献立帖(茨木のり子著、平地勲写真、平凡社・1760円)
③そっと 静かに(ハン・ガン著、古川綾子訳、クオン・2420円)

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 夏の夕方、風に吹かれながら読むうちに、ほてっていた心が平温に戻るような三冊。①熊本で書店を営む著者の明け暮れを綴(つづ)ったエッセイ。本を通した出会いと別れ、幼い日の記憶、猫たちのこと。サンダル履きのまま散歩に出て、ふと宵月を見上げるような感慨。時折さしはさまれる熊本弁の響きが郷愁を誘う。②詩人が夫と過ごした歳月に書かれた日記とレシピ。暮らしをつくる手と凜(りん)とした面差しが甦(よみがえ)る。誰かと一緒にいながら、個人として在(あ)ることの妙味を思う。③ノーベル賞作家である著者は、何よりも詩人であり、歌とともにある人だった。思い出の中の歌、不意に生まれてくる歌。痛みや涙だけじゃなく、愛情と温(ぬく)もりを湛(たた)えた歌声がそこに。瞼(まぶた)を閉じて耳を傾ける、そっと静かに。

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慶応大学教授 井手英策さん

①壁の向こうの住人たち(A・R・ホックシールド著、布施由紀子訳、岩波書店・3410円)
②ターラの夢見た家族生活(パボ著、安發明子訳、サウザンブックス社・3300円)
③ケインズ説得論集(ジョン・メイナード・ケインズ著、山岡洋一訳、日経ビジネス人文庫・1430円)

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 悲しみと怒りの淵源(えんげん)を読み解き、身近な他者に思いを馳(は)せ、歴史を動かした経済学者の魂に触れる。想像しただけで汗がにじむ。①怒り。屈辱。被害感情。アメリカ右派支持者のメンタリティ、リベラル嫌いの理由に迫る。膨大な時間を費やし、己と異なる思想を持つ生活者のロジックを紡ぎだした著者の努力に感動。②精神疾患のある母と暮らす娘。在宅教育支援専門職のパボ。二人の葛藤と奮闘を描いた漫画。世間の常識が当事者の非常識であること、フランスのソーシャルワーカーの熱量を知り、震える。③戦後福祉国家の土台をつくったケインズの根底にある人間観を学ぶ。マルクスをみよ。シュンペーターをみよ。偉大な社会科学者は、政治と関わり、人びとの〈見かた〉を変えた。

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東京大学准教授 植原亮さん

①ハイペリオン 上・下(ダン・シモンズ著、酒井昭伸訳、ハヤカワ文庫SF・上1254円、下1034円)
②カレーライスと日本人(森枝卓士著、講談社学術文庫・1430円)
③漱石日記(夏目漱石著、平岡敏夫編、岩波文庫・836円)

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 暑くて長い夏、スペクタクル超巨編に没入したくなります。①は今年二月に逝去したダン・シモンズの傑作SFシリーズ。とくに第一作は多様な文芸ジャンルを撚(よ)り合わせる手法で、ページをめくる手が止まりません。
 暑くてだるい夏、辛い食べ物が欲しくなります。②は、「そもそもカレーとは何か」という根源的な問いからスタートして歴史と文化をたどり、やがて普段の食卓に戻ってきますが、そのとき視野は世界に広がっています。
 暑くて憂鬱(ゆううつ)な夏、気分だけでも旅に出たくなります。そこで、③のロンドン留学日記を紀行文学として楽しんでみましょう。現地で個人授業を受けている教師の悪口を書き連ね、下宿に引きこもる生身の漱石が好きになるかも(?)

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ノンフィクション作家 梯久美子さん

①新版 犬が星見た ロシア旅行(武田百合子著、中公文庫・990円)
②女二人のニューギニア(有吉佐和子著、河出文庫・990円)
③崩れ(幸田文著、講談社文庫・671円)

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 旅に出ることが叶(かな)わない人のための、すごい文章家による紀行文。①1969年、武田百合子は夫・武田泰淳(たいじゅん)、その友人で中国文学者の竹内好と、当時のソ連を旅した。泰然としているようで変なところに気を遣う酒飲みの夫、食べたもの、出来事、風景。この人の書く文章はすべてが正直すぎてヘンテコで、容赦がないのにしみじみ切ない。②有吉佐和子のニューギニア紀行。相棒は友人の文化人類学者。密林を越え、生きたまま石油をかけ火をつけて狩った大蛇を食べる。帰国後に入院するはめになったワイルドすぎる旅。③地肌がむき出しになった「崩れ」の地形を、70歳を超えた幸田文が訪ね歩く。同行者に背負われてまで見たかった風景とは? 精緻(せいち)な描写に息をのむ。

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>朝日新聞書評委員の「夏に読みたい3点」②はこちら

>朝日新聞書評委員の「夏に読みたい3点」③はこちら

>朝日新聞書評委員の「夏に読みたい3点」④はこちら