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鈴木のりたけさんが語る職業としての絵本作家 思い浮かべた世界 表現する喜び

おもちゃ箱のようなアトリエで絵本の魅力について話す鈴木のりたけさん=武藤奈緒美撮影

 ――絵本作家という職業を意識するようになったのはいつごろですか。

 新卒で鉄道業界に飛び込んだのですが、もっと自分のアイデアや工夫を形にできるような仕事がしたいと考えて、広告業界に転職しました。グラフィックデザイナーとして働くうちに、自分の名前の残る仕事をしたいと感じることが増え、絵や漫画、絵本を描いてコンペに応募するようになりました。
 「ケチャップマン」という絵本で思いがけず賞をもらい、絵本の仕事につながっていきました。絵本作家になりたかったわけではなく、自分の作品を世に出すための数ある手段の中のひとつという感じでした。

 ――絵は独学ですか。

 美術部でも美大卒でもなく、自己流でやってきました。グラフィックデザイナーになる前、商業印刷の決まりなど技術的なことを学ぶために短期集中講座に通ったくらいです。絵本作家の養成スクールなどもあるので、必要だと感じたら行くといいですが、そこに行けば絵本作家にしてもらえるとは思わない方がいい。自分から学び取りに行く気概が必要だと思います。

 ――絵は描けるものの、ストーリーが書けないと苦戦する人もいます。

 僕の場合、表現したいことが先にあって、それをわかりやすく読者に伝えるためにはどう描けばいいかという順序で考えていくので、ストーリーは自然と立ち上がっていくんですよね。だからストーリー作りにハードルを感じたことはありません。グラフィックデザイナー時代に、商品の価値をどうやって多くの人に届けるかを考える癖がついたので、それが絵本作りにも生きているんだと思います。絵とテキストを使ったビジュアルコミュニケーションとしての絵本作りが僕の強みです。

 ――デビュー直後は会社勤めをしながら絵本を作っていたそうですね。

 「しごとば」(ブロンズ新社)1巻の頃はまだ会社員だったので、時間を捻出するのが大変でした。続編を作ることになり、専業になれば自分のエネルギーをすべて絵本に注ぎ込めると思って、8年間勤めた会社を辞めました。編集者からはまだ早いと止められましたけどね。
 実際、絵本の印税だけで生計を立てている作家はかなり少ないと思います。デビューできたとしても、重版がかかる作品を継続的に出していくのは簡単なことではないですから。でも、挑戦してだめだったら別の道を探せばいいだけなので、自分が信じた道を全力で進んできました。

 ――仕事の喜びをどんなときに感じますか。

 絵本作家の仕事には、自分が思い浮かべた世界を自ら作り上げていくような万能感があるんですよね。キャラクターも世界観も物語もすべて自分の思うままだし、自分の考えていることをわかりやすく形にして届けられます。表現者としての喜びを存分に感じられるのが絵本作家の醍醐味だと思います。

仕事のあゆみ

  • 10歳で「海」をはじめとする加古里子(かこさとし)さんの科学絵本の面白さを知る。
  • 22歳でJR東海に入社。新幹線の運転などを経験したが、1年9カ月で退社する。
  • 26歳でグラフィックデザイナーになる。
  • 30歳を目前に作品で自分の名を残したいと思い、絵を描き始める。
  • 31歳、絵本「ケチャップマン」で公募の賞を受賞。
  • 32歳で絵本作家デビュー。会社勤めを続けながら「しごとば」を制作する。
  • 34歳で専業絵本作家に。以降、画材やタッチを変えながら、40作を超える本を生み出す。
  • 50歳で「大ピンチずかん3」が年間ベストセラー総合1位(出版取次大手調べ)を獲得する。「鈴木のりたけ大原画展」が故郷・静岡で開幕。現在巡回中。 

    「世界図絵」(J・A・コメニウス著、井ノ口淳三訳、平凡社ライブラリー)と「ユゴーの不思議な発明」(ブライアン・セルズニック著、金原瑞人訳、アスペクト)

    〈なりたい人へ〉 「世界図絵」(J・A・コメニウス著、井ノ口淳三訳、平凡社ライブラリー)

     17世紀に出版された世界で最初の子ども向けの「絵本」。木版画と短いテキストでさまざまな事物を紹介する百科事典のような本です。絵本は感情を揺さぶる情緒的な物語が主題になりがちですが、知的好奇心に火をつけるスイッチにもなりうるのだと、この本を見て気づかされました。絵本で何がやりたいのかを考えるときに手にとってみるといいかもしれません。

    (品切れ中)

    〈さらに読むなら〉「ユゴーの不思議な発明」(ブライアン・セルズニック著、金原瑞人訳、アスペクト)

     文章で読ませるのかと思いきや、急に絵だけのページが続く構成が特徴的な小説です。映画的なカメラワークで描かれた鉛筆画からは、文章では表しきれない緊迫感が伝わってきます。既存の絵本のフォーマットにとらわれず、何を表現したいのか、そのためにどんな表現手段を使うのかを考え、文章と絵でできる新しい表現に挑戦していこうと勇気づけられた作品です。

    (品切れ中)

    鈴木のりたけさん=武藤奈緒美撮影

    ◇次回は装丁家の川名潤さんが登場予定です。