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「〈そうだったんだ!日本語〉じゃっで方言なおもしとか」書評 人と人との距離感を縮める

評者: 川端裕人 / 朝⽇新聞掲載:2014年03月09日
じゃっで方言なおもしとか (そうだったんだ!日本語) 著者:木部 暢子 出版社:岩波書店 ジャンル:言語・語学・辞典

ISBN: 9784000286299
発売⽇:
サイズ: 19cm/199p

〈そうだったんだ!日本語〉 じゃっで方言なおもしとか [著]木部暢子

 書名をぱっと理解できる人は日本語話者でも少数派だろう。方言を研究する著者の拠点となってきた鹿児島で「だから方言はおもしろい」の意。
 著者が鹿児島で経験した自動車免許の学科試験の話が秀逸だ。例えば「軌道敷内を通行してはいけない」という○×問題に「×」と答えてしまい(正解は○)、何度も試験に落ちる人がいる。否定の表現を含む質問に対して、標準語的には「いいえ〜肯定、はい〜否定」だが、鹿児島弁では、英語の「YES〜肯定、NO〜否定」と同じ発想で、つまり、試験問題に正答すると間違いになってしまうのだ! この種類の方言は、鹿児島だけでなく各地にあるという。
 さらに、質問文の文末を下げる方言(よその人には質問なのか分かりにくい)、「お目にかかりません」を意味する言葉が「おはようございます」になる方言、「わたしたち」と言う時に、話をしている相手が入るかどうかで違う単語を使う方言、等々、本当に方言は多様だ。「おもしろい」というのはその多様性を肯定的に捉える態度からくる。
 かつて、方言は抑圧され、学校教育でも排斥された。方言を使うと「方言札」なるものを首から提げさせられた地域もある。しかし、今、方言の価値を再評価するべきだという。「方言はその地域の人々を和ませ、人と人との距離感を縮める」からだ。その一方で、そのことが他者の排斥に繋(つな)がる可能性にも言及し、「言語を絶対視」することの危険性も説く。これまでの方言軽視が、標準語の絶対視から来ているなら、この危険性について我々は学習済みだとも。
 なお、日本語の方言のいくつかは、独立言語の国際基準を満たし、かつ「消滅危機」を危惧されている。世界中で起きている言語の消滅の問題など、昨今の方言や少数派言語をめぐる議論の背景を知ることもできる。日々、我々が使う、ことば、について考える契機となるだろう。
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 岩波書店・1785円/きべ・のぶこ 55年生まれ。国立国語研究所教授。『日本語アクセント入門』など。