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「銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件」書評 読者の想像力で物語が完成

評者: 川端裕人 / 朝⽇新聞掲載:2013年10月13日
銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件 著者:アンドリュー・カウフマン 出版社:東京創元社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784488010072
発売⽇: 2013/09/12
サイズ: 20cm/133p

銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件 [著]アンドリュー・カウフマン

 銀行強盗が、そこに居合わせた人たちに、お金ではなく「もっとも思い入れのあるもの」を要求する。母が大学卒業時にくれた腕時計、高校時代から使っている電卓、子どもの写真など。それらを奪うことで「魂の51%」が失われ、不思議なことが起こるという。また、魂を自分で回復しないかぎり、命を失うことになるかもしれぬとも。
 各人に襲いかかる「不思議」は様々。語り手の妻は身長が日々縮む。夫が雪だるまになったり、足のタトゥーからライオンが飛びだして追いかけられたり、母親が98体に分裂してしまったり……ユーモアに包まれつつダークでビターなエピソードが続く。
 「魂の回復」に成功する者と悲劇を迎える者の岐路はどこか。様々な深読みが可能だ。2度読めばそれだけで印象が変わる。この奇妙な味わいの作品は、読み手側に多くが委ねられており、想像力をフル回転させてはじめて完成する。読書の喜びの原点ともいえる興奮を味わわせてもらった。
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 田内志文訳、東京創元社・1260円