「愛と魂の美術館」書評 画と文に触発され思索の旅へ
評者: 後藤正治
/ 朝⽇新聞掲載:2012年11月18日
愛と魂の美術館
著者:立川 昭二
出版社:岩波書店
ジャンル:芸術・アート
ISBN: 9784000220705
発売⽇:
サイズ: 20cm/340p
愛と魂の美術館 [著]立川昭二
絵と美術をめぐるエッセー集である。作品は、フラ・アンジェリコ「受胎告知」、シャガール「セーヌの橋」、中宮寺「半跏思惟(はんかしい)像」、上村松園「焔(ほのお)」……など54点、古今東西に及んでいる。
ここしばらく枕元に本書があって、画に見入り、その論考を読みつつ寝入る日が続いた。画の残像や想念のかけらがちらつきながら夢路へと導かれるのであった。
著者は、個々の作品に対して「自分なりの思いを自由にくり広げていただければいい。それが本書の目的」と記す。そう、画と文に触発されて自由な思索の旅を楽しんでいい本なのだろう。
最終作品に、石井一男の作品が取り上げられている。50代になって世に出、神戸の棟割り住宅に暮らす孤高の画家である。童女とも野仏とも菩薩(ぼさつ)とも見える「女神」像。評者の好きな画家でもあるが、「ただ無心にたたずんでいる」ゆえに「ふかぶかとした世界」へと誘ってくれるとの指摘、うなずくものがある。
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岩波書店・3570円