池澤夏樹「氷山の南」書評 思索する冒険ロマン
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2012年05月13日
氷山の南 (文春文庫)
著者:池澤 夏樹
出版社:文藝春秋
ジャンル:一般
ISBN: 9784167901851
発売⽇: 2014/09/02
サイズ: 16cm/594p
氷山の南 [著]池澤夏樹
2016年、高校を卒業した18歳のジン・カイザワは、南極の氷山を水不足の土地に運ぶ船で密航した。食堂の手伝いと新聞を作ることを条件に乗船を許され、冒険が始まる。乗船者は多民族で多宗教。アイヌの血を引く少年ジンも気負うことなく溶け込んでいく。航海の途中、アボリジニーの画家ジムに呼ばれたジンは、オーストラリアの大地を歩き、自然と人間が共存した太古に思いをはせる。船への帰途、氷を信奉する「アイシスト」の中心人物と遭遇。彼女は「開発と浪費の悪循環を絶つ。社会を冷却する」という。実に魅力的な考えではないか。淡いロマンスあり、スパイ騒動あり。さて、氷山の運命は……。思索する冒険ロマン。
◇
文芸春秋・2205円