「井上ひさし全選評」 新しい文章はもう読めないけれど
評者： 四ノ原恒憲
／ 朝⽇新聞掲載：2010年05月02日
井上ひさし全選評
著者：井上 ひさし
出版社：白水社
ジャンル：小説・文学
ISBN: 9784560080382
発売⽇：
サイズ: ２０ｃｍ／７７２，４９ｐ
井上ひさし全選評 ［著］井上ひさし
本書を書店で見かけた読者は、少々おじけづくかもしれない。本文だけで８００ページに迫る分厚さに。でも、心配ご無用、とっても読みやすい。
直木賞、山本周五郎賞、吉川英治文学賞、大佛次郎賞、岸田国士戯曲賞……。先日亡くなった井上さんが、１９７４年から昨年まで審査を担当した文学、戯曲などの賞の選評を網羅したものです。
だから、収められた３７０余の文章自体の一つ、一つは、とても短い。どこからでも読める。だからといって、内容が薄いなんてことはありません。
真摯（しんし）かつ、凝り性な井上さん。自称、「三文検事」と「五流弁護士」の間を揺れながら、時に厳しく欠点を「告発」し、また、美点を熱く「弁護」する。そんな、文章そのものが、一編のエッセーと化しているのが芸でしょう。「小説——文章をもって『天地を動かす』仕事である」なんて、文学観もそこここに顔をのぞかせます。
選評を「鏡」に、読んだ作品を思い出すも一興。未読の作品も読みたくなってくる。だけど、井上さんの新しい文章はもう読めない。ただただ合掌のみ。
四ノ原恒憲（本社編集委員）
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白水社・６０９０円
