「バナナの皮はなぜすべるのか?」書評 ひたすら追求、収穫また収穫
評者: 四ノ原恒憲
/ 朝⽇新聞掲載:2010年06月20日
バナナの皮はなぜすべるのか?
著者:黒木 夏美
出版社:水声社
ジャンル:芸術・アート
ISBN: 9784891767778
発売⽇:
サイズ: 21cm/247p
バナナの皮はなぜすべるのか? [著]黒木夏美著
「一点突破全面展開」——一読、そんな言葉を思い出した。
鬱々(うつうつ)とした心で散歩していた著者の前に、バナナの皮が落ちていた。瞬間、バナナの皮で人がすべるギャグを連想し、テンションが回復した著者は、素朴な疑問を抱く。あのギャグは、いつ生まれたのか、と。
ただひたすらそれだけを追求した本だ。で、面白くないか、といえば、いやいや。次々現れる疑問を追いかけていくたび、収穫は増殖に増殖を重ねる。
内外の映画、アニメ、マンガ、文学はもちろん、短歌、俳句に登場するバナナやそのギャグ史から、実際に滑ってケガをした人の記録……。時に、ギャグ論や植民地問題にまで、視野は伸びる。その一つ一つが、何やら想像力を刺激するし、全体として豊饒(ほうじょう)な果実を味わい尽くしたような満足感に至る。
もう一つ。興味深いのは、ネットがなければ絶対に生まれなかった本という点だ。ネットに散在する単なる「情報」を吟味し、書籍資料と組み合わせ、一覧性をもつ本という形にすれば、こんなことも出来る、という可能性をも見せてくれる。いやはや、バナナの皮恐るべし。
四ノ原恒憲(本社編集委員)
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水声社・2100円