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記憶と忘却がからみあう欧州史

 欧州の歴史問題というと、負の歴史に向き合う現在のドイツの姿が思い浮かぶ。飯田芳弘著『忘却する戦後ヨーロッパ 内戦と独裁の過去を前に』(東京大学出版会・4968円)という書名に、違和感を覚える向きもあるかもしれない。
 しかし、戦後史を長い時間軸でみると、「記憶するヨーロッパ」と並んで「忘却するヨーロッパ」の事例が目に付く。
 忌まわしい過去をただすことは、時として憎悪や対立をあおり、報復の連鎖を生みかねない。1950年代の西ドイツは、社会統合を優先して恩赦や戦犯の釈放を進めた。70年代にフランコ独裁体制が崩壊したスペインでは、諸勢力の合意で民主化推進のために独裁体制の過去の行為を不問に付した。89年に共産主義政権が倒れた東欧諸国でも、過去との闘いにおける「忘却の政治」が見受けられる。
 どのような場合に、どのように過去は忘却されるのか。その政治過程に著者は切り込む。記憶と忘却の複雑な連鎖に新たな光を当てる著作である。(三浦俊章)=朝日新聞2018年6月30日掲載