本はもちろん、ノートに封筒、新聞、雑誌などなど、私たちの身の回りには紙があふれている。身近な存在だけに、気がつけば紙ものが手元に集まってしまうという人も多いはずだ。そんな「紙」をテーマにしたイベント「紙博」が6月9日、10日に東京都立産業貿易センター台東館で開催され、2日間で1万人超が熱狂した。たかが紙、されど紙。多くの人たちを惹きつける「紙博」の魅力を探ってみた。
「紙博」は原点回帰
「紙博」を主催するのは、編集チームの手紙社。東京・調布を拠点にカフェや雑貨店の経営をはじめ、これまで「もみじ市」や「東京蚤の市」「布博」など、手仕事に焦点を当てたイベントを手掛けてきた。
そんな同社がなぜこのタイミングで紙をテーマにしたイベントを仕掛けたのか。
「私たちが店舗で最初に扱っていたものが主に紙ものの雑貨だったことから、いつかは紙の大規模なイベントをやりたいと思っていたんです」と手紙社の藤枝梢さん。
「日本の紙ものって、デザインはもちろん、熟練の職人が手作業で作っているメーカーも多くて、技術的にも優れています。東京会場の浅草は、紙の問屋やメーカーが多い町。外国人観光客も多いので、日本の紙ものの良さや面白さを世界にも広めていきたいという思いもありますね」
いざ「紙博」の現場へ。無類の紙好きたちが集結
取材に訪れた「紙博 in 東京」2日目の開場は朝9時。それにも関わらず、朝6時台に既に入場の列ができていたという。
昨年も同じ場所で開催されたが、会場は1フロアのみで2日間で1万人弱が来場。予想を大幅に上回る来場者数に会場はかなりの混雑となった。そんな経験を踏まえ、今年は会場を2フロアに拡大。女性を中心に次から次へと客足は絶えないが、身動きがとれないほどのことはない。友達同士や家族、カップルの姿もあるが、おひとり様もわりと多い。
「紙博に来る方は本当に紙が好きで、紙ものを集めるのが好きという人が多い。他の手紙社主催イベントに比べてマニアックな人が多い印象があります」と藤枝さん。
紙は自由だ! 工夫次第でいろいろ楽しめる
会場を一巡すると、紙の多様性に圧倒される。色やデザインはもちろん、質感やその形状に至るまで実にさまざまだ。
他の素材に比べて、使い勝手がいいのも紙の強みなのだろう。作り手たちの縦横無尽なアイデアを見ているだけでも楽しい。
例えば、光を当てて楽しむ絵本やカード。紙という素材に光が加わることで、影という新しい表現を生む。
当たり前と言えば当たり前だが、「こんな紙の使い方もあるのか!」と、まさにコロンブスの卵を目の当たりにした気分になった。
こちらのスノードームの形をしたシールは、色紙に貼ると雪の結晶が浮かび上がってくる仕掛けだ。トレーシングペーパーでできたシールなので、絵や文字の上に重ねても透けて見え、オリジナルのスノードームをデザインすることもできる。
紙を巻いて鉛筆が手作りできるキットは、巻いた紙の順番によって鉛筆を削った時に見える柄が変わってくるのがポイント。巻く紙に願い事や密かなメッセージが書けるのも、紙の鉛筆ならではだ。
本や文房具関連のものが多い中、異彩を放っていたのが、この紙製のコーヒードリッパー。
「紙製のフィルターはあるが、ドリッパーも紙で作ったらどうなるのか」という素朴な疑問から試作が始まったという。ドリッパーの形とコーヒーの淹れ方がどのようにコーヒーの味に影響するのかも研究し、丸型、角型、星型の3つの形に辿り着いた。画用紙で作られた形の異なるペーパードリッパーは、抽出時間も変わり、コーヒーの味わいも変わってくるのだとか。コーヒーを味わった後には、まるでアート作品のようなコーヒーの抽出跡が楽しめる。
今回紹介したのはほんの一部。東京会場には手紙社がキュレーションした計91組が出展しており、他にも紹介しきれないほど紙の可能性が感じられるアイテムが一堂に揃う。それこそ「紙博」の醍醐味なのだろう。いつも行く文房具店や大型雑貨店では見たことがないものばかりだ。
「紙博」の魔法
他ではあまり見たことがないものだからこそ、「紙博でしか買えない……かも」という魔法にかかる。しかも、デジタル化が進む世の中とはいえ、ノートやメモなどの主な紙ものはいまだに身近で、実用性も失っていないという現実。「何かしら使うだろう」という思いも重なる。気づけば両手いっぱいに紙袋を下げ、自分も紙博の魔法にかかっていた。
きたる7月14日(土)、15日(日)には、京都にやってくる「紙博」。藤枝さんに今後の展開を伺うと、全国の紙好きには嬉しい答えが返ってきた。
「構想中ですが、東京と京都以外の場所でも紙博を開催していきたいと考えています」
あなたの町に「紙博」がやってくる日も近いかもしれない。