生前の船村徹にインタビューしたことがある。美空ひばりの「みだれ髪」に関してこう語ってくれた。「ワンコーラス目の『投げて届かぬ想(おも)いの糸が』の歌詞につけるメロディー案が二つあって、悩んだ末に決めた。ひばりさんはそれを知らないはずなのに、捨てた方のメロディーをレコーディングのときに歌ったんだよ。聴いてみたら、その方がいい。驚いた」
西川昭幸著『美空ひばり 最後の真実』(さくら舎・1944円)にもそのエピソードが出てくるが、船村のこんな言葉も紹介している。「歌手が作家の意図を超えて歌う、つまり楽曲を作者の手から奪い取って、自分のものにしてしまうことが極めて稀(まれ)にだが存在する」。そこにこそ、不世出の歌手ひばりの凄(すご)みがあるのだろう。
一方で、著者は「社会的な名声と富は、常に人間としての不幸と背中合わせである」と書く。ひばり自身も「美空ひばりには神様がいる。でも本名の、加藤和枝には神様がいないの」と語った。この本を読むと、痛切な言葉の意味がよく分かる。(西秀治)=朝日新聞2018年7月14日掲載
編集部一押し!
-
インタビュー 五十嵐大さん「拝み屋のおばあちゃんと僕」インタビュー いないことにされた僕は、マイノリティを書くと決めた 清繭子
-
-
とりあえず、茶を。 教室のすみっこ 千早茜 千早茜
-
-
イベント 内田有美さん「おせち」が第1位に! 「大ピンチずかん」で人気の鈴木のりたけさんは3作がTOP10入り 第18回「MOE絵本屋さん大賞2025」贈賞式レポート 好書好日編集部
-
新作ドラマ、もっと楽しむ 連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」主演・織田裕二さん、原作者と対談 「怒り」が消えた今、意味を持つ大作 加賀直樹
-
人気漫画家インタビュー 成田美名子さん「花よりも花の如く」完結記念インタビュー 運命に導かれるように「能」と向き合った24年間 横井周子
-
朝宮運河のホラーワールド渉猟 ホラーの鬼才が描く、怪奇幻想×戦争小説 飴村行さん「粘膜大戦」インタビュー 朝宮運河
-
インタビュー 【サイン入り本プレゼント】一木けいさん「嵐の中で踊れ」インタビュー 避難所で起きた再生の群像劇 PR by NHK出版
-
インタビュー 湊かなえさん「暁星」インタビュー 作家として「言葉」に向き合い、新たな扉開いた PR by 双葉社
-
トピック 【プレゼント】第68回群像新人文学賞受賞! 綾木朱美さんのデビュー作「アザミ」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】大迫力のアクション×国際謀略エンターテインメント! 砂川文次さん「ブレイクダウン」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
トピック 【プレゼント】柴崎友香さん話題作「帰れない探偵」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り PR by 三省堂