生前の船村徹にインタビューしたことがある。美空ひばりの「みだれ髪」に関してこう語ってくれた。「ワンコーラス目の『投げて届かぬ想(おも)いの糸が』の歌詞につけるメロディー案が二つあって、悩んだ末に決めた。ひばりさんはそれを知らないはずなのに、捨てた方のメロディーをレコーディングのときに歌ったんだよ。聴いてみたら、その方がいい。驚いた」
西川昭幸著『美空ひばり 最後の真実』(さくら舎・1944円)にもそのエピソードが出てくるが、船村のこんな言葉も紹介している。「歌手が作家の意図を超えて歌う、つまり楽曲を作者の手から奪い取って、自分のものにしてしまうことが極めて稀(まれ)にだが存在する」。そこにこそ、不世出の歌手ひばりの凄(すご)みがあるのだろう。
一方で、著者は「社会的な名声と富は、常に人間としての不幸と背中合わせである」と書く。ひばり自身も「美空ひばりには神様がいる。でも本名の、加藤和枝には神様がいないの」と語った。この本を読むと、痛切な言葉の意味がよく分かる。(西秀治)=朝日新聞2018年7月14日掲載
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