子どもや若者が家族の介護や世話をする、若年介護の問題が注目されている。渋谷智子・成蹊大准教授の『ヤングケアラー』(中公新書)は、介護の担い手にならざるをえなかった彼らの厳しい現実を描き出す。
ヤングケアラーは「介護や世話をする若者」という意味で、英国では主に18歳未満を指す。米国では「ヤングケアギバー」という。同書によると英国ではイングランドだけで約16万6千人。日本でも2012年の就業構造基本調査によると、15~29歳の介護者は17万7600人に上る。
祖父母の排泄(はいせつ)や食事の世話や病気の親に代わっての家事、障害を持つきょうだいの世話――。「ヤングケアラーがケアする対象はさまざま。こなしている役割も負担の重さも多様」と渋谷さん。認知症の家族を深夜まで介護する子、長時間話し相手になる子もいる。
実態の解明は途上だ。問題が認識されにくい理由を、渋谷さんは「子どもの側からは話しづらく、周囲の大人からも見えにくいため」と説明する。
睡眠不足や疲労から学校生活に影響が出ても、教師や同世代に理解されず、孤立しやすい。「家族の介護が不登校につながる事例も多い」と渋谷さんは問題視する。家族の介護を優先して進学や就職、結婚など人生の選択を狭めてしまう例もある。
渋谷さんらが実施したアンケートでは新潟県南魚沼市で4人に1人、神奈川県藤沢市で2人に1人の公立の小中学校などの教職員が、ヤングケアラーとみられる生徒と出会った経験があった。
戦後日本は寿命が延び、1世帯当たりの人数は減って、共働きが増えた。高齢化と人口減少が進む中、「大人だけでは介護や家事を十分に回せない状況も出てきて、しわ寄せを受けているのがヤングケアラー」だと、渋谷さんはみる。
渋谷さんは、手話を使うろう者の文化を研究する中で、親や大人の会話を通訳する子どもの話にひかれ、ヤングケアラーという言葉を知った。
若年介護の問題に早くから取り組んできた英国では、仲間が集まる場を設けて話しやすい環境を作り、教育や福祉など行政の様々な部署が支援に動く。
渋谷さんは「介護を担いつつも自分の時間を持ち、自由な人生を選べるようにしなければ」と福祉と教育など行政の連携を訴える。家族の介護を経験した元ヤングケアラーが、その後の人生をどう歩んでいるのか。ケアの経験は仕事にも生きているのではないか。今後の研究テーマだという。(大内悟史)=朝日新聞2018年7月28日掲載