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小野花梨さん エゴサーチをしない理由「お芝居は私だけの力じゃないから」(第13回)

小野花梨さん=武藤奈緒美撮影

【今回のテーマ】承認欲求

自分軸はお得でコスパいい

 今回のテーマは「承認欲求」。MCの劇団ひとりさん、WEST.の桐山照史さん、SUPER BEAVERの渋谷龍太さん、小説家の村山由佳さんとともに参加した小野さん。5歳でデビューして以来、表舞台に立ち続けている小野さんですが、意外にも承認欲求はあまりないそうで……。

「お芝居の世界を続けているのは、目立ちたいという思いよりか、マネージャーさんやスタッフさんといった近くにいてくれる人たちが褒めてくれるのが嬉しいからというのが理由な気がします。
 番組でもお話したのですが、承認欲求って取り扱い注意なものだと思っています。誰かに認められたいと頑張ることは素敵なことだけど、それがいきすぎると他人の評価に自分の幸せをゆだねることになって苦しくなっていってしまうのではないかと。それよりは自分で自分を認めてあげられたほうがお得でコスパが良いのではないかと思っています」

 すごく大切な考え方ですね。

「近くにいてくれる人たちに喜んでほしいという気持ちも、承認欲求といえば承認欲求なのかもしれませんが、私の場合、手の届く狭い範囲の人たちに思うことなので、ネットを通したその先の人や、もっともっとたくさんの方に、という思いはあまりないです」

 なぜその範囲にとどめられていると思いますか。

「ひとつは、自分の目の届かない人たちからいただく批判の声が怖いんだと思います。私はSNSをやっていませんし、エゴサーチもしないのですが、そこからもらえるお褒めの言葉より、見も知らぬ誰かが私に不快感を持っていることを知る恐怖のほうが勝つんです。
 もうひとつは、私は私の力だけで表舞台に立てているわけではないと知っているからだと思います。芝居は、脚本家の方が書いてくださる脚本があり、監督さんがいて、共演者の方がいて、編集する方がいて……本当にたくさんの方の力が加わった状態で、ようやくみなさまにお見せできる状態になるもの。全部が全部自分だけで考えた芝居をしているわけではなく、監督やお相手の方とディスカッションしながら作り上げていったものも多いです。だから、その過程を知らない人から『小野のここがダメだった』というご意見がきても、深く刺さらないんだと思います」

小野花梨さん=武藤奈緒美撮影

反応が欲しいときは信頼する人に聞く

 その若さでそこまで俯瞰できていることが素晴らしいです。今やっていることへの反応や評判が知りたくなったときはどうするんですか?

「世に問うのではなく、自分が答えてほしい人に直接聞きます。それがほめ言葉じゃなかったとしても、この人の言うことなら受け止められるっていう相手に。目がたしかなのはもちろん、自分のことを思ってくれて、信頼できる人だったら、どんな評価でもプラスになると思うから」

 ほかのゲストのかたの言葉で印象に残ったことはありますか。

「直木賞もとり、その先の賞もすべてとりつくし、承認欲求なんて断ち切っているように見える村山さんが、それでも『もっともっと小説が上手になりたい』とおっしゃっていたのが、衝撃でした。新人の若い編集のかたに『もっと上手になりたいからなんでも言ってくれ』っておっしゃるという、その強い気持ち。承認欲求でネガティブなものとして語られがちですけど、こういう前進させる大きな力にもなるんだなと気づかされました」

 小野さんは「人気が落ちてしまうかもしれない」という不安はありますか。

「全然ないです。そもそも自分が今、人気かどうかを意識したことがなくて。もし私のお芝居感覚が評価されないのなら、きっとお仕事はなくなっていくでしょうし、続けられているのであれば、なにかしら面白いものを感じていただいているのかなって思うけれど、それも結果論にすぎない。そこに今の私が何かできることってあんまりない気がします」

 では、どこにモチベーションがあるんですか。

「あんまりないかも。みなさんに求められたところへ行き、求められた仕事をする毎日です。人生というものをすごく長い旅だと考えていて、ひとつひとつのお仕事に達成感を持って、はい終わった! はい次!ということではなくて、地続きの日々を私としてやっていく感覚です」

小野花梨さん=武藤奈緒美撮影

言語化は生きやすさのツール

 今回の「わたしの日々が言葉になるまで」で印象に残ったことは。

「最後に、今日の一本目の収録を終えた気持ちを比喩であらわすコーナーがあったんです。それが見事にバラバラで。桐山さんは『コップからあふれ落ちる水をうけとめる器が欲しい』、渋谷さんは『好きな人との最初のご飯後の帰路の心持ち』、村山さんは『鈍行の終電にゆられている心地がする、しかも月曜の』、ひとりさんは『まだ味のするガムを吐き出すような』。そして私は『むずかしい料理をレシピを見ながら作っている時のような』。なんとなくのこの感覚の違いを言語化することで、ひとってそれぞれだよねっていう気付きがある。言語化は、他者と自分の境界線を知り、他人軸に乗っ取られずに済む〈生きやすさのツール〉になると感じました」

【番組情報】
「わたしの日々が、言葉になるまで」(Eテレ、毎週土曜20:45~21:14/再放送 Eテレ 毎週木曜14:35~15:04/配信 NHKプラス https://www.nhk.jp/p/ts/MK4VKM4JJY/plus/)。次回の放送は8月9日(土)20:45~。テーマは「相手に届く叱るときの言葉」「ヤバイとエグいのちがい」です。