「のんびり のんき なんでもない たのしい生活」。このエッセー集の帯にあるコピーだ。「ためになる本じゃないけど、ゆったりした気分になってもらえればいいな」と思って、自分で作った。
「くろちゃん」は愛猫。4年前から一緒に暮らしている。くろちゃんを、伸坊さんはこう書く。「こんなに、遊びばっかりでいいのか? と、思ってみて、自分で笑ってしまった。毎日が遊びって、ほとんど私の理想じゃないか」
くろちゃんにかみつかれるとムカッとする。でも、こう思い返す。「怒ってはいけない。もう少し大人にならなきゃ」
「ツマ」は妻の文子さん。取材で、猫の着ぐるみを着た伸坊さんとカメラマン役の文子さんが日光・東照宮に出掛けたときの描写がある。変な趣味の夫婦と思われそうだというくだりには噴き出してしまう。
一見ばかばかしいことの中から何かを見つけて、おもしろがる。「細かく観察すれば、見るべきところはある」
そんな話を「昭和軽薄体」と呼ばれる文体を駆使してつづり、読者を伸坊ワールドに誘い込む。「この本を読んで、こんな面白がり方があるのかと思ってもらえれば。でも、教育的なものは何もない」
この本の編集者が畢生(ひっせい)の作と言うのが「ハハ・タカコ」という一編。お母さんの話だ。「人形作りや絵がうまくて芸術家の気質を持っていた。僕が絵を好きになったのもお袋のおかげ。子供のまま大人になったような人だった」と、やはり子供の心のままの伸坊さんは振り返る。
おにぎりの形に似た頭で有名だが、白髪になり、最近は「塩むすび」に。笑顔がいいから、よく人に「いつも笑っているのかと思った」と言われる。「そんなやつはいないだろう」と、こっそり思う。
東京都内のマンションの一室が仕事場。夕方6時になると仕事を打ち切って、歩いて15分ほどの自宅に戻る。「締め切りで、編集者が待っていたとしても帰る。もう70過ぎですから、人の言うことを聞いてばかりいなくてもいい」ときっぱり。そしてまた、ニコッと笑った。(文・西秀治 写真・工藤隆太郎)=朝日新聞2018年8月4日掲載
編集部一押し!
- ニュース 第171回芥川賞・直木賞、選考委員が語る講評 「真っ二つに分かれ」直木賞受賞を逃した作品とは? 朝日新聞文化部
-
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 レジェンドOB伝統の一戦。いつか自分もヴォネガットのように、歩んだ道を伝えられたら(中江有里の「開け!野球の扉」 #16) 中江有里
-
- インタビュー すがちゃん最高No.1さん×岸田奈美さん対談 きつい話もポジティブに書く「面白いのが一番かっこいい」 清繭子
- コラム 格闘技もプロレスも神事である 夢枕獏 夢枕獏
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 小説家になりたい人・清繭子がエッセイストデビュー。「人生の意味は後付けでしかない」【「夢みるかかとにご飯つぶ」刊行記念特別版】#15 清繭子
- トピック ヨン様からNewJeansまで一気読み! ハヤカワ新書「韓流ブーム」好書好日メルマガ読者3名様にプレゼント 好書好日編集部
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社
- インタビュー 物語の主人公になりにくい仕事こそ描きたい 寺地はるなさん「こまどりたちが歌うなら」インタビュー PR by 集英社
- インタビュー 井上荒野さん「照子と瑠衣」インタビュー 世代を超えた痛快シスターフッドは、読む「生きる希望」 PR by 祥伝社
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂