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一生懸命でユーモラスな動物が心に響く まつおかたつひでさん「ぴょーん」

文・写真:柿本礼子

——「かえるが・・・」と、ページを縦にめくると「ぴょーん」! 色々な生きものがはねる『ぴょーん』は、刊行された2000年から人気を博し、累計発行部数100万冊を超える大ヒットになった。フランスや中国、韓国など様々な国での翻訳版の出版も相次ぐなど、海外からの評価も高い。

 恐竜の絵本を作るための取材でアメリカに行って、その帰りの飛行機が急に揺れたんだ。その時の体がぴょーんと上がる感じでひらめいたのが、この本につながったね。あとはシンプルな切り絵で作ってみたいと思っていたアイデアが合わさって、この本の原型がポンポンと出来上がっていきました。

『ぴょーん』(ポプラ社)より

 多くの赤ちゃんや子どもに受け入れられている原因は、全ての動物がまっすぐ(読み手の方向を)向いているでしょう。赤ちゃんの方向を向いているということが大事なんです。例えば猿の子どもは、小さい時はお母さんの腕に抱かれて、おっぱいしかみていないでしょう。それが、ちょっと余裕ができると周りを見始めるんだね。そこでお母さん猿は、ボスとは目を合わせちゃいけないとか、社会のしくみを教える。そして徐々に子どもはお母さんの腕から離れて、一人で歩き出すんだね。「ものを見る/見られる」というのは、動物の行動の中心にあるものなんだ。見られていると気づくことは成長過程でとても大切なことで、5歳くらいまでの子どもは見られていることに敏感だね。

 どの動物も真剣に、一生懸命に見ているでしょう。本の中の動物に見られていることで、本の枠を超えて、自分がストーリーのなかに入っていける。それでいて、跳んでいる姿はユーモラス。そのギャップが読者を惹きつけるのかもしれないね。あの話を読むと、どの国でも子どもたちがみんなぴょんぴょん跳ねるんだ。

アイデアは夜、寝ている時にふと思いつくことも。そんな時は枕元の紙にメモを取り、後日、簡単な本の形にしてみる。プロット版のストックは数十冊にのぼる

——虫や動物を探しに世界を旅して、観察を続けてきたまつおかさんだからこその着眼点だからこそ生まれた『ぴょーん』。小さい頃から昆虫採集が好きで、新潟・長岡の野山を歩き回り、冒険家のアルフレッド・ラッセル・ウォレスの『マレー諸島』を読み心躍らせる少年時代を過ごした。

 昆虫採集は孤独なんだよね。一人で山の奥までどんどん進むと、たまにキツネやタヌキに遭遇したりする。そんな時は、化かされるんじゃないかとドキドキしたな。今日はこれを見つけるぞと決めて、場所を推測して捕まえたときは楽しくて。(国蝶の)オオムラサキを捕まえたこともあったな。自然からのご褒美だね。

日本はもとより、オセアニアやアフリカなどで採集した蝶の標本

 絵も好きだったね。海外の作品も、どんな技法で描かれているのか考えるのが好きで、そういうときはまず、真似をして描いてみる。そうすると方法がわかる。おもちゃが壊れても、なぜ壊れたのか、どこが壊れたのかを見て、見よう見まねで直しちゃう。自然科学を自分の経験で納得して、見出していくのが楽しかったんだね。人間関係だけは苦手だったけれど。

 スケッチブックなんてないから、新聞紙の余白だとか、菓子箱だとかに描いてね。父親が新聞を読んでいる時に、自分の欲しいものを描いてアピールするわけ(笑)。昆虫や草木も、特徴を描いておくと、後で調べられるでしょう。そういう自己流で、速くリアルに描くことがうまくなって、リアルに描くことに心ときめいたんだ。

 小学校の先生も天才だと褒めてくれて、当時はそこに活路を見たように思ったんだけれど、中学高校と進むにつれ、リアルに描くこととアートは違うぞということに気がついた。そこで親の勧めに従って一度は就職したものの、どうにも性が合わずに、同部屋で下宿していた地元の友人と「ここには未来がないから、辞めようぜ」と飛び出したんです。その時から、得意な絵でやっていこうと覚悟を決め、専門学校に入り、デザイナーとして広告代理店に入社しました。

まつおかさんの仕事場。蝶や昆虫の標本のほか、いま描いているものの写真資料が揃う。気になる作家のポストカードは目に見えるところに貼り、インスピレーションを受ける

 就職先の広告代理店では社長に可愛がっていただき、百貨店の広告イラストを描いたりしていましたが、ある時、展覧会に出した絵を出版社の方が気に入ってくれて、絵本の仕事をするようになりました。絵本の仕事はクライアントがいない分、自由に描けるのが楽しかったね。

 でも、自分の中に「物凄い」ものがないと、自由に描けないんだね。それに気がついて、自分の世界を知ろうと世界に旅に出ました。自分の知りたいことは自然であって、小さい頃からの夢は冒険や探検だったから。そこで昆虫採集をしにニューギニアに行ったら、裸の人ばかりでびっくりしたね。家の前に石器があったりするの。そこから、オーストラリア、メキシコ、アマゾン、ボルネオ、アラスカなど、色んな場所に行きました。

海辺で流木を拾い、ユーモラスなおもちゃを作る。「絵に行き詰まった時の息抜きみたいなものだね」とまつおかさん。モーター付きで動くものも

——海外探検旅行の経験をもとに、『知識絵本』『すばらしい世界の自然』『熱帯探険図鑑』『ジャングル』などを精力的に描き上げたまつおかさん。2000年には故郷の長岡にアトリエを建設し、自然観察や絵本制作に励む。

 自然をずっと眺めていると、生きものの営みが見える。同じ場所に生きている生きもの同士のつながりも見えてくる。植物の命や、動物の命の営みが見えてきて、そうしているうちに物語が生まれてきます。じっと観察すると、豊かな世界が見えてくる。僕の原動力は常に自然の中にありますね。

——中国でも『ぴょーん』は50万部のヒットとなり、ファンも多い。自然に触れ合う機会の少ない中国の都市部では、自然教育も盛んになっている。まつおかさんの描く豊かな自然をもっと知りたい、次の世代につなげたいと願う親たちが多くいる。

 僕は長岡のアトリエ周辺を散策するエコツアーを実施しているのですが、同じような自然観察ツアーを中国でも実施しました。絵本を入り口に、本物の自然にも興味を持ち、体験してもらえるといいですね。